表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/34

16話

 

 最寄りの駅。

 通勤で見慣れているはずの駅なのに、位置が違う。

 ここは、


「……売店か?」


 帰りのホーム側にだけある売店からの映像だった。

 僕は、行き交う人々に目線を合わせる。


 冬服を着ている。

 まだそう遠くない過去だ。


「次は……」


 売店のどこかに乾電池があるはず。

 売り物じゃない。

 ここで使われていた乾電池、それがあるはずだ。


 画角を考えろ。

 ホームに電車がすべりこんできた。


 乗客の乗り降りが画面に映し出される。


「2番線のホーム。通勤快速は午前中だけ……あとは」


 日付だ。

 なにか、分かるものはないか。

 目を凝らして売店の中をくまなく探す。


「はい、180円」


 中年男性の声がスピーカーから聞こえた。


「いってらっしゃい」


 女性店員の腕が画面下から伸びるその瞬間だった。

 新聞の日付が見えた。


「二月一九日」


 声に出して読み上げた。

 スマホを操作し、カレンダーを表示させる。


「先週か!」


 そう思ったとき、違和感を覚えた。


 五日前。

 近すぎる。


 ほとんど、今だ。


「すぐに捨てられた? 持ち込み?」


 市役所の乾電池の回収は二週間に一度。

 コンビニなら、もっと遅い。

 相反する思いが交錯する。


 だったら。


 行き着いた答えに、短く息を吸って落ち着かせる。


 この電池は、正規の回収ルートに乗っていない。

 誰かが五日前に、直接ねじ込んだんだ。


 そして、それを僕が持って帰ってきた。


 五日前。

 自然と意識が過去へと戻る。


 麻衣が、あの日、家に来た日だった。


 早退し、大学の先輩に会い行った。

 その前は、朝から現場で荷受の担当をしていた。


 ベルトコンベアで流れてきた乾電池を二本持ち帰った。


 ふと目線がテレビ台に向かう。

 あの日の乾電池は、そこにあった。


「誰が、僕の家に……」


 考えたくない。

 その日は。

 先を、考えようとして、止まった。


 嫌な予感が、形になる前に頭の奥で、何かが強くブレーキをかける。


「……麻衣が?」


 手にしたリモコンが滑り落ちた。


 あり得ない。

 そんなはずはない。


 なのに。


 その可能性だけが、他のすべてを押しのけて、頭の中に残った。


 不意に——。


 テレビから、悲鳴とブレーキの軋む音が弾けた。

 振り返ると電車がホームに停まっている。


 1番線。

 反対側のホームに、先頭車両が映っていた。

 売店は、駅の中央付近にある。


 さっきまで動いていた人波が、嘘みたいに止まっていた。


 非常ベルが、スピーカーを壊さんばかりに鳴り響く。


 それでも。


 誰一人、動かなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ