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15話

 

 自宅に戻る途中、タクシーの車窓から止まっている赤色灯が見えた。


「この辺りって、行方不明の親子の家があった場所ですよね」


 運転手が、ルームミラー越しに話しかけてきた。

 ため息のあと、「そうですね」とだけ返した。

 歩道沿いには、テレビ局のスタッフらしき人たちと野次馬が集まっていた。


「ねえ、お客さん。通り魔事件の現場もこの辺りじゃなかったですか? ほんと、世の中物騒になりましたね」


 僕は外を見ているふりをして、返事はしなかった。

 何も知らなければ、僕も同じことを考えていただろう。


「犯人、早く捕まるといいですね」

「えっ」

「いや、早く犯人が捕まるといいな、って」


 犯人が捕まれば、もうあの映像を見なくて済む。


「ここで止めて下さい」

「え、ここでいいんですか?」


 ルームミラー越しに、運転手の戸惑う顔が見えた。

 自宅マンションまで距離はあったが、じっとしていられなかった。

 支払いを済ませると、急いで走った。


 乾電池はまだある。

 あの中に、犯人が映っているかもしれない。


 帰ってくると、真っ先にテレビに向かった。

 あれほど嫌っていたテレビに、希望が見えた。


 まずは麻衣が見たであろうあの映像。

 親子の部屋は暗かった。

 そして、麻衣が映っていた。


 その時の乾電池は、テレビ台の横に別けて置いてあった。

 念のため、アンテナは外す。


 短く息を吸って、リモコンの乾電池を入れ替える。

 電源ボタンを押す。


 一瞬、フラッシュバックする子どもの笑い声。

 幸せだったであろうあの家族に一体何があった。


「映った!」


 もう怖くない、と言い聞かせて音量を上げる。

 映像を凝視しながら、音にも注意を払った。


 暗い道路の先に、街灯が一つ。

 麻衣はここを歩いている自分の姿を見て、僕が盗撮をしていると疑った。


「少し考えれば分かるって。こんな場所から僕がわざわざ盗撮するはずが……」


 息が詰まった。

 もし、この映像がすでに行方不明の後だとしたら?

 僕は過去だと思い込んでいたが、それが違っていたら?


「この映像、二週間前じゃない……?」


 プツン。


「おいおい、待ってくれ!」


 真っ黒の画面に、僕の焦った顔が反射する。

 無駄だと分かっているのに、リモコンを何度も叩く、

 電源ボタンも強く押しすぎて、指先が痛い。


「肝心な時に、なんで!」


 嫌な妄想が止まらない。

 もし、麻衣が後をつけられていたら?


 焦る余り、取り出した乾電池が床に落ちて音を立てる。

 急いでリビングに行くと、ダンボール箱を両手に抱えてテーブルに乗せる。


 どれでもいい。

 続きを、続きを見せてくれ。


 無造作に掴んだ乾電池をリモコンにセットしようとして取りこぼした。

 大きさが違う。


 クソ。

 再び乾電池を手に取り、蓋も閉めずにボタンを押した。


 モニターに映し出された映像を見て、言葉を失った。

 そこには、ガヤガヤと騒がしい人混みの様子と、行き交うたくさんの人々。

 誰もが周りを気にすることなく、ただ足早に通り過ぎていく。


「ここって……」


 思考が追いついたときだった。


『まもなく、2番線に、通勤快速がまいります。黄色い点字ブロックまでお下がりください』


 ホームのアナウンスが流れてきた。


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