13話
刑事たちは、名刺を置いて帰っていった。
「なにか見たり聞いたり。些細なことでも構いません。気づいたことがあったら連絡ください」
最後にそんなことを言った。
テレビと向き合う。
確かめなければ。
心臓が高鳴り、目を瞑りたくなるのを我慢する。
裏側に腕を伸ばし、震える手でアンテナを差し込んだ。
リモコンには、新品の乾電池に入れ替えた。
何度か躊躇ったあと、電源ボタンを押した。
数日ぶりに、テレビ番組が映る。
ちょうど夕方のニュース番組がやっていた。
普通がどれほどありがたいか、今更ながらに安堵しつつ、チャンネルを変えた。
リモコンを握る手に力が入る。
『行方不明となっているのは、この家に住む無職・高橋香里さん(32)と、長女の千紗ちゃん(4)です。警察によりますと、二週間前の昨夜11時ごろ、帰宅した夫が二人の姿がないことに気づき、警察に通報しました』
見知った家がズームされる。
二日前、出窓で見たクマのぬいぐるみが目に飛び込んできた。
隠しようがなかった。
どれだけ言い訳しようと、あの映像は紛れもない過去の事実を映している。
あの映像が、事件の一部だったとしても……。
やっぱりあの家か。
通り魔らしき人物を映し、今度はその住人。
事後報告のような映像から、僕が出来ることなどたかが知れている。
ただ見るだけだ。
自分だけが安全圏にいる気持ち悪さにうんざりする。
握った拳。
すぐに力が抜け落ちる。
椅子に腰を落とすと、頭を抱えた。
本当に病気になりそうだ。
突然スマホが震える。
ちょっと驚きつつも手に取ると、先輩からのメールだった。
そっとしておいて欲しかった。
件名を見て、今日何度目のため息。
自分から頼んでおいて、勝手な言い草だな、と鼻で笑う。
『お疲れ様。前に話した、「残留思念物質化」を専門にする藤堂教授に話した。興味を持ってもらえたみたいで、直接会って話したそうだ。ちょっと変わった教授だが、よろしく頼む。都合のいい日にちと時間を教えてくれ』
追伸
明日から学会で出張するので、立ち会えないが、話は通しておくのでよろしく。
返信せずにスマホをそっと閉じた。
泥沼に足を踏み入れたような喪失感に襲われ、しばらくなにもせず、テレビを見ていた。
番組はいつの間にか、アニメ放送に変わっていた。
魔法を使って、敵をなぎ倒してく勧善懲悪の単純さ。
頭を使わずにいられる感覚に浸っているときだった。
突然、場違いなブザー音が鳴る。
『【速報】市内河川敷で2人の遺体 行方不明の親子とみて身元確認』
どうしようもなく、嫌な胸騒ぎを感じた。
スマホを手に取った。
正義感でも、義務感でもない。
僕は叫びたくなる悲鳴を飲み込んだ。
返事を書き、送信ボタンを震えながら押す。
今できるのはそれだけだった。




