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12話

 

 翌日。

 欠勤した。

 無欠勤記録は終わったが、堂島課長はすんなり信じてくれた。

 父の影響も大きいだろうが、おかげであれこれ詮索されずに済んだ。


 ベッドにもぐり、頭から布団を被った。

 眠くないのに、起き上がれない。


 疲労とは違う、脱力感。

 何も考えたくなかった。


 何度かスマホを手にしたが、結局連絡はしなかった。

 きっと言い訳だと思われる。


 どれくらいそうしていたのか、インターホンが鳴った。


「麻衣!?」


 飛び起きて、すぐに足を止める。

 そんなはずはない。

 スマホを手に取ると、午後の三時すぎ。


 再び、インターホンが鳴る。


 玄関先まで行き、インターホンの映像を覗くと、見知らぬ男性が二人立っていた。

 不審に思いながらも、通話ボタンを押す。


「はい」

「ああ、お休みのところ恐れ入ります。私、富野というものです」


 そう言って、何かをカメラに近づけた。


「け、警察?」

「はい。お話をお聞きしたくて。少しだけ、お時間いいですか?」


 身に覚えはない。

 乾電池を持ち帰ったくらいで、来るはずがない。

 色々考えたが、結局、ため息が漏れた。


「今、開けます……」


 リビングのテーブルに通した二人は、警察手帳を互いに掲げた。


「突然、押しかけて申し訳ない。体調は大丈夫ですか?」

「ええ、どうしてそれを?」

「会社に連絡したところ、体調不良でお休みだと聞きまして」

「そうですか……」


 深いため息が溢れる。

 今頃、会社じゃ大騒ぎだろう。


「桐島夏彦さん、早速ですが、昨夜。どちらに居ましたか?」

「昨日ですか?」


 ちらりと目がテレビに向く。

 彼女が見た映像で、怒って飛び出した。

 それを追いかけて……。


「残業で遅くなって、八時くらいに帰って来ました」

「その後は?」


 手帳に書き込みながら、富野は続ける。

 もう一人の男性は、僕をじっと見ているだけだった。


「ええと、彼女が家にいました」

「続けて」


 隠しても無駄だろう。

 だから、来ている。


「喧嘩して、それから追いかけました」

「喧嘩。なるほど、追いかけてどうしました?」


 何を疑ってる……?

 そう思った瞬間、状況が飲み込めた。


「え、まさか。彼女に何かあったんですか?」


 駅まで見送ったあと、何かあったのだ。

 だから警察は僕の所に。


 思わず身を乗り出した。


「彼女は……麻衣は無事なんですか?」

「桐島さん、落ち着いて。今、こちらから質問してますから」

「いや、何かあったから来たんですよね? 教えてください、刑事さん」


 掴みかからんばかり声に、二人は互いに頷きあうと、


「彼女さん。角川麻衣さんは無事というか、今は関係ありません。今日も小学校に出勤しています」


 浮かした腰が、音を立てて椅子に落ちる。

 良かった。

 本当に、良かった。


「それで、お聞きしても?」

「あ、はい」


 何度か深呼吸をして、説明した。


 住宅街で、彼女を呼び止めたこと。

 駅まで見送ったこと。

 帰りにコンビニで、ビールを買ったこと。


 そう言えば、冷蔵庫に入れっぱなしだった。


「分かりました。ありがとうございます。外出中、不審な人物は見ませんでしたか?」

「不審な人物ですか?」


 何を聞かれているのか分からなかった。

 ほっとしたのもあるが、不審者なんて見なかった。


 それでも、彼女を呼び止めた時に中年のサラリーマンとすれ違ったことだけは話しておいた。


「あの、差し支えなければ、どうして僕に……その聞き取りを?」

「そうでした」


 富野はわざとらしく口を開けて、「この近くで行方不明者が出ましてね」と言った。

 行方不明者のためにわざわざ来たの?


「それで、ですか……?」


 つい余計なことを言ってしまった。


「そうですよね。まあいいでしょう」


 富野はもったぶるように手帳をめくる。


「近々報道で知ることになると思いますが」


 手帳に目線を置きながら、


「この付近で親子が行方不明になりましてね。二週間ほど前から。事故と事件の両方で捜査してるんですよ」


 返事が返せなかった。

 視線は自然とテレビに向いてしまう。


 乾電池の映像には、意味がある。

 それが、彼女ではなかっただけだ。


 映像は、映されている側だけじゃない。

 映像を記録している側でも、何かが起きている。


 乾電池。

 その傍でも、何かが起きているのだ。


 そう思うと、テレビから視線が外せなくなった。

 黒い画面が急に重く感じ、そこに誰かの視線が返ってくる気がして、背筋が凍った。


 彼女は、あのとき、何を聞いた?


 額に嫌な汗が滲んだ。


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