7-8 【forced removal】装甲の強制排除
7-8 【forced removal】装甲の強制排除
「――だぁー もう駄目だ、暑い!! 暑すぎてこれ以上は1ミリもやっていられないよ!!」先ほどまでの神業のような張り詰めた緊張感はどこへやら、クローディア(マリ)は突然、装甲のパワーアシストのテンションを完全に弛緩させると、試験場の床の真ん中で「ぐでー」と締まりのない声を上げてへたり込んでしまった。
それは考えてみれば当然の結末であった。
皮膚にぴったりと密着した、通気性の皆無な高密度カーボンファイバースーツを纏い、さらにその上から頑強な密閉式の白い装甲服を隙間なく着込んでいるのだ。いくら『HIMAT』の電子制御によって動きそのものは100%サポートされているとは言え、マリ自身の肉体の基礎体力は、運動不足気味なインドア派の普通の若い女性に過ぎないのである。
ましてや、過酷な訓練を積んだ軍人でも、日常的に身体を動かしているプロのスポーツ選手でもない彼女が、ものの数十分で音を上げて根を上げるのは、しごく無理もない話であった。
「もう限界! 無理! 脱ぐ!!」マリはヘルメットの奥で、息を荒くしながら『装甲強制排除』を音声入力した。
バイザー越しの視界に投影されたウインドウへ、鮮烈な赤文字で【 forced removal 】の警告ログが表示されたのを確認する。
主人の緊急命令を即座に受理したHIMATは、電磁ロックを一斉に解除し、マリが纏っていた白い装甲一式を彼女の身体からパージ(排除)した。
バイザーの光が消えて【 System shutdown 】の文字が出るや否や、マリは待ちきれないとばかりに頭部のヘルメットを乱暴に脱ぎ捨て、床へと放り出した。
「はぁ、はぁ……! これって、動かすとこんなに内部がサウナみたいに暑くなるものなんだね。自分で着てみて初めて知ったよ……」マリは乱れた金髪をかき上げながら、自分が脱ぎ捨てた装甲パーツをトコトコと健気に拾い集めて回収している遥の姿を、ふと横目で見つめた。
(……おかしい。遥は、いつもあの白銀のシラユキを涼しそうな顔をして平然と着こなしているから、私はてっきり中もエアコンが効いているみたいに快適なんだとばかり思っていたけれど。……よし、本人に直接聞いてみるか)そう思い至ったマリは、床にしゃがみ込んでいる人造人間の少女へ尋ねることにした。
「ねえ、遥。ちょっと聞くのだけど……君はそのスーツを着ていて、少しも暑くないのかい? 私は見ての通り、もう命の危険を感じるレベルで茹で上がっているんだけどね」そう言って愚痴をこぼすマリの身体は、カーボンファイバースーツの上からでもはっきりと分かるほど、まるでバケツの水をひっくり返したかのようにすっかり汗だくであった。
装甲パーツを両腕に抱えた遥は、マリのその問いかけに対して、端正な顔立ちのまま「きょとん」と黒い瞳を瞬かせ、不思議そうに小さく首を傾げて答えた。
「はい、マリ。問題ありませんが」あまりにも平然と答える遥。
生身の人間には絶対に真似できない「人造人間の超越したスペック(自動での熱交換能力)」という理屈抜きの現実を突きつけられ、汗だくのまま何とも納得のいかない、恨めしそうなジト目を遥へと向けるクローディア(マリ)であった。




