7-7 Gの逆算とリアルタイム応答速度修正
7-7 Gの逆算とリアルタイム応答速度修正
クローディア(マリ)は何度も同じ突撃と救出の行動を繰り返し、機体の制御値を瞬時に修正していった。
彼女はヘルメットの奥で満面の笑みを浮かべながら、「なるほど、ここはそうか。……ふむ。本当におもしろいな!」と楽しそうに独り言ちながら、バイザーの視界に投影された透過型の空間キーボードを叩き、超高速のキータッチを繰り広げていく。
外部からその光景を見れば、やはり虚空に向かって指を狂ったように動かしている奇人の行動にしか見えないのであった。しかし、そんな常軌を逸した荒業をマリが迷いなく実行できるのも、すぐ横でニコニコと微笑みながら絶対的な信頼感で見守る遥がいてくれるからこそであった。
「はい。マリは私が絶対に守りますので、安心して調整に専念してくださいね」遥はそう言って、両拳を握って胸の前に突き出し、ふんす、と頼もしく意気込んでいる。
管制室のゆりは、横に世界最強のセーフティである遥が就いているため安全だとは分かってはいるものの、モニターの激しい主観映像を見せられ続けて常にハラハラドキドキの心労の絶えない心境であった。
だが、そんなゆりの心配をよそに、マリによるプログラムの修正は驚異的な速度で積み重ねられていく。
(――マリ。あなたの行動はいつも、私の科学者としての常識を木端微塵に驚かせてくれるわね。まさかこんな事までやってのけるなんて。
普通、システムのデバッグというものは、一度機体を止めて値を修正してから再度テストを行い、そのログを元に問題があるか脳内で考察、必要であればまた新しい数値を入力して修正……というステップを泥臭く繰り返す必要があるのに。あなたは走りながら、もう常人の3、4人分の仕事を一人で同時にこなしているわ。……驚きを通り越して、ただただ呆れるしかないわね)
遥に何度もギリギリでキャッチされながら、走っては空間コンソールの数値を書き換え、走っては値を書き換え、文字通りの力技によって、狂暴だったシラサギの出力が徐々に「一般の人間の動かせる安全な領域」へとデバッグされていく。
(しかも、時速数十キロで走りながら、身体にかかるG(負荷)の逆算だけでパワーアシストの『応答速度』と『減衰率』の数値をピタピタと正確に言い当てて修正していくなんて……。一体、どんな頭の構造をしているのかしら)ゆりですら開いた口が塞がらない、まさに神業を試験場で披露しているのであった。
しかし、そんな人類の限界を超えた神業を平然と披露し続けていたマリであったが、次の瞬間、何の前触れもなく突如としてその動きをピタリと停止させた。コンソールの数値入力の手も止まり、白い装甲が試験場の真ん中で完全に沈黙する。
一体、彼女の身体に何が起こったのであろうか。




