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7-5 HIMAT(統合分子自律技術)基幹OSの覚醒

7-5 HIMAT(統合分子自律技術)基幹OSの覚醒


「さて、遥には盛大に笑わせてもらったし、そろそろ本腰を入れてお仕事の時間かな」そう言ってクローディア(マリ)は楽しそうに立ち上がると、なんの躊躇もなくその場で自身の服を脱ぎ出し始めた。あまりにも迷いのないその突飛な行動に、デスクのゆりは目を丸くして、呆れを通り越した声を上げる。


「ちょっと、マリ! あなた一体どうしたのよ、突然部屋の真ん中で服なんか脱ぎ出して!」


「ん? なんだいゆり、ここには君と遥しか居ないのだから何も問題ないじゃないか。私は至って真面目に、今から仕事をするための正装に着替えているのだよ」マリは笑いながら、天野グループ特製の高度に精錬された機能性インナー――黒いカーボンファイバースーツにそのスタイル抜群の身体を滑り込ませていく。


「正装って……まさかマリ、あなた自分でその『シラサギ』を着るつもり!? 忘れたわけじゃないでしょう、さっきナベさんに見せてもらったあの衝撃映像。一般の屈強なテスターたちですら天井に突き刺さっているのよ。あなたが着たら、それこそ一歩目で壁にめり込んで大怪我するのがオチだわ!」


「そんな事は百も承知だよ、ゆり。だからこそさ。……遥、手伝っておくれ」「はい、マリ。分かりました」主人の呼び出しに、控えていた遥がトコトコと歩み寄り、パーツ化された白い装甲をマリのカーボンファイバースーツの各ハードポイントへカチリ、カチリと接続していく。


「マリ、これで最後のパーツです」遥はそう言って、両手で大切そうに抱えていた頭部保護用のヘルメットを差し出した。


「ありがとう。うぐ……システム起動前だと、さすがに鉄の塊みたいに重いなぁ」マリは生身の身体にかかるズッシリとした質量に顔をしかめながらも、そのヘルメットを頭からすっぽりと被る。


視界が密閉され、次の瞬間、彼女の瞳の前に広がる暗黒のバイザーへと、鮮烈な光の文字がホログラムとして一斉に表示された。


H : Hyper-evolutionary

I : Integrated

M : Molecular

A : Autonomous

T : Technologies――


Initializing…(システム初期化中)分子自律技術『HIMAT(統合分子自律技術)』の基幹OSが瞬時に覚醒し、マリのバイザーの奥を無数の起動ログが滝のように流れ落ちていく。


そして一秒後、中央に緑色の輝きを放つ【 READY 】の文字が点灯した。パワーアシストの油圧とナノマシンの駆動トルクが完全に噛み合い、先ほどまでマリの肩に圧し掛かっていた数十キロの重量負荷が、嘘のように一瞬でゼロへと消失する。起動は100%成功であった。


「よし……。遥、一つお願いがあるのだけど、君も『シラユキ』を纏って、試験場で私の物理的なサポートに回ってほしいかな」


「はい、マリ。分かりました」遥が静かに目を細めると、彼女のインナースーツの表面を無数の高密度ナノマシンが波のように覆い尽くし、一瞬にして一切の繋ぎ目のない白銀の戦闘装甲『シラユキ』へとその姿を変貌させた。もし万が一にも、マリの身体に過剰な負荷や暴走の危険がかかった瞬間、その腕で即座にマリを完璧に救出できるよう、遥は隣で絶対的なセーフティ(護衛状態)として機能する構えをとった。マリの一連の迷いのない装着シークエンスを呆然と見届けていたゆりが、ようやくハッと我に返り、管制室のマイクを掴んで身を乗り出した。


「マリ、あなた本当に実地試験をやる気なの!? 冗談抜きで怪我をするわよ! 私は絶対に止めたからね!」スピーカー越しに響く、本気で自分を心配してくれている親友の怒声に対し、マリはヘルメットの奥で悪戯っぽく笑いながら答えた。


「ははは、心配ありがとう、ゆり。でも大丈夫さ、私の横には世界最強のセーフティ(遥)がついていてくれる。要するにさ、運動神経が一般人以下の『素人の私ごとき』でも安全に、滑らかに操作できる領域まで数値をデバッグできれば、自動的にそれがナベさんの求めている完璧な製品版(ミドル・エントリー)になるって事だろう? ……あ、そうそう。あとで数値の比較をしたいから、ゆりにも同じようにこれを着て走ってもらうけどね」そのマリの最悪の巻き込み宣言を聞いた瞬間、ゆりは心底、それこそ魂の底から嫌そうな顔をして、即座にピシャリと言い放つのであった。


「――いや、私は絶対に、死んでも着ないからね!」

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