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7-1 製造部門責任者・渡辺譲司(ナベさん)

7-1 製造部門責任者・渡辺譲司(ナベさん)


「――やぁ、マリちゃん。ちょっと今、時間あるかな? すこし困ったことになってしまってね」端末のスピーカーから響いてきたのは、聞き慣れた、けれどどこかバタバタと慌てた様子の声だった。


電話越しに会話しているのは、天野グループ製造部門の責任者である渡辺譲司――ナベさんだ。


「やぁ、ナベさん。どうしたんだい、そんなに慌てて」クローディア(マリ)にとって、渡辺譲司という男は特別な存在だった。彼女がまだ物心ついたばかりの幼少の頃からの付き合いであり、当時はよく「工場見学」と称して、グループの様々な最先端プラントへ遊びに連れて行ってもらったものだ。


幼い頃から頭脳が突出していたマリの破天荒な行動や突飛な発想に対し、普通の大人であれば眉をひそめて烈火のごとく怒っていたであろう数々のやらかしも、ナベさんだけはいつも豪快に笑い飛ばしてくれた。『まぁ、まぁ。子供のすることだからね。大目に見てあげようじゃないか』そう言って常に味方でいてくれた渡辺譲司は、この世界において数少ない、マリという異端の天才の良き理解者であり、温かい保護者の一人でもあった。


「いや、口でくどくど話すより、実際の映像を見てもらった方が早いか。どうだろう、今手元のパソコンでチャット画面を開けられるかな? 画面を共有しながら説明するよ」


「あっ、それなら、ちょうど横にゆりもいるから一緒に参加してもらうよ。いいかな?」マリはそう言って、デスクの隣でコンソールを睨んでいた共同開発者に視線を送る。


「ええ、私は構わないわよ」ゆりは視線だけで小さく頷いてみせた。


「ナベさん、ゆりも今から参加するよ」


「おぉ、ゆりちゃんも一緒か。それは助かる」マリの操作によって、研究室のメインモニターへ流れるように高セキュリティーのWEB会議ウインドウが立ち上がる。


「ありがとう、じゃあ電話は一度切るよ」渡辺譲司の言葉と共に通話が終了し、一拍置いて、WEB会議の画面に彼の親しみやすい顔が映し出された。


「やぁ、二人ともお疲れさん! いやぁ、それにしても凄いものを作ってくれたね。いま、うちの現場に配備されたテスト機の間で、とんでもない評判(大騒ぎ)になっているよ」渡辺譲司の言うテスト機とは、もちろん、先日マリたちが天野財閥のメインサーバーへマスターデータをアップロードしたばかりの新型戦闘装甲兵器――『シラサギ』の事であった。


当然、開発者であるマリやゆり自身が、ここから量産のための工場ラインを動かして製品版を組み立てるわけではない。


二人が組み上げた基本設計データ(仕様書)を元に、実際の工業製品(レディメイド)として落とし込んでいくのは、ナベさんが統括する製造部門の仕事になる。それこそ「ベビーカーから、果ては最新鋭の軍事兵器まで」を幅広く取り扱っている、世界的巨大複合企業・天野グループである。


今回もシラサギのマスターデータを使い、量産向けの製品版へとブラッシュアップしていくプロセスを踏んでいた。これが無事に完成すれば、政府の要請によって防衛省から陸上自衛隊の特殊部隊などへ配備されるのは必至であり、同時に天野グループの民間警備部門や海外市場への市販品としても莫大な需要が見込め、財閥にもたらされる利益は相当な額にのぼるはずだった。


――ただし。それは今手元にあるデータが、寸分の狂いもなく「完成」すればの話である。


画面の向こうのナベさんの、どこか引き攣った満面の笑みを見つめながら、ゆりとマリの二人は、この後に発覚する「とんでもないトラブル」への不穏な前兆を感じ取るのであった。

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