6-17 マネキン試験と運動試験の同時進行
6-17 マネキン試験と運動試験の同時進行
遙たちが縦横無尽に動き回り、瑞々しい生態データを稼いでいるその傍ら。別の隔離された防護区画では、もう一つの「耐久試験」が淡々と執り行われていた。
これは、純粋にプロテクター自体の物理的な限界強度や、どの程度の質量攻撃で装甲が致命的に破綻するのかを確認する、至極真っ当な工業製品としてのテストである。
試験の内容は、これまでと寸分変わらない。弾丸を撃ち込み、槍で突き刺し、巨大な油圧ハンマーを様々な角度から叩きつけては、歪みゲージの測定値を淡々と記録していく。
ただし――そこに立たされているのは、意志を持つ遙たちではなかった。
プロテクターを着せられただけの、無機質な「マネキン人形」たちだ。純白の装甲は次々と過酷な暴力に晒され、歪み、ボロボロに破損して砕け散っていく。
かつて開発の初期段階において、「生身(の試験体)を入れなければ本当の試験じゃない!」と豪語していたクローディアだったが、ここへ来て明らかな心境の変化を見せていた。
それには、極めて単純で、あまりにも人間らしい理由があった。
――遙たちは、攻撃を完璧に「避けてしまう」のである。実戦用の兵器である以上、攻撃が万が一にも直撃して装甲が破損した際、その内側にある人間の肉体へどれほどの殺傷衝撃波が伝わるのか(中の人間が死なないかどうか)を測るデータも、科学的には絶対に必要不可欠だった。
遙たちに「実験だから、わざと避けないで攻撃に当たって壊れてみておくれ」と言えば、忠実な彼女たちは二つ返事でその通りにしただろう。
だが、クローディアはその命令をあえて下さなかった。そんな無粋で残酷な真似、自分の期待に応えてこんなにも美しく、そして愛らしく進化した遙たちにさせたくない。
それこそが、天才科学者クローディアとしての、そして一人の人間としての強い「矜持」であり、本音であった。
ただ破壊されるためだけの、心を持たない不完全なクローン(生体肉塊)を再び培養槽で生成することも、技術的には容易だった。しかし、クローディアのプライドがそれを断固として許さなかった。
(そんな無様な人形を、今さら作り出してどうする。私の目の前には、すでに最高傑作(遙)がいるじゃないか)開発者二人の、遙たちへの深い愛情とプライドの裏返し。
それによって、マネキンを使った冷徹な破壊試験と、遙たちの自由な運動試験という、二つの至極真っ当なプロセスが、同じ時間軸の中で美しく同時にこなされていくのであった。




