6-13 群体知覚(スウォームインテリジェンス)
6-13 群体知覚
(主系と待機系……。たしかに、常時通電しているコンピューターの世界なら成立する理屈よ。機械なのだから。
でも、彼女たちは生身の肉体を持っているのよ!? 生きている生体同士で常時ネットワーク同期を行うなんて、脳の処理能力がバグってしまうわ……!)ゆりは一人、心の中で戦慄していた。だが、ナノマシン工学者としての膨大な知識の底から、ある生物学的な概念が呼び起こされる。
『群体知覚』――。アリやハチなどの社会性昆虫が、個々の単純な行動ルールの積み重ねによって、集団全体であたかも一つの巨大な生命体のように高度で複雑な知性を生み出す現象。
(そして、アノマリー……! 奴らも、これと全く同じ群体知能で動いていたわ。……私たちは一体、何を作り出してしまったの? 本当に、これで良かったのかしら……)自分が神の領域に触れてしまったのではないか。
ゆりが科学者としての深い十字架と、底知れない沈黙に囚われかけた、その刹那だった。研究室の張り詰めた静寂をぶち破る、快活な笑い声が響き渡った。
「わはははは! すごい、すごいじゃないか、遙! いやぁ、本当に君は退屈させないね! 今日は笑ってばかりだよ!」お腹を抱えて愉快そうに笑うクローディアの姿を見て、ゆりは毒気を抜かれたように、ふっと肩の力を抜いた。彼女の突き抜けた狂気にも似た明るさが、今は救いだった。
「ふむ。そうするとさ、今私と話している遙には明確な意思があるけれど、後ろに綺麗に整列している子たちは、ただの操り人形で話さないのかい?」好奇心の塊と化したクローディアが、後ろに控える純白の群れを指差して尋ねる。
「いいえ、マリ。今の私は、すべてが私です」オリジナルの遙が答えた、まさにその瞬間だった。後ろに整列していた無数の試験体たちからも、全く同じタイミング、全く同じ声、全く同じ音量で、一斉に同じ答えが返ってきたのだ。
「いいえ、マリ。今の私は、すべてが私です」ステレオスピーカーどころではない。空間そのものが共鳴するような美しく冷徹な斉唱が、研究室の空気を激しく震わせるのだった。




