6-11 評価機(デモ機)フェイズへの移行
そして、ついに「その時」がやってきた。引き金となったのは、クローディアの何気ない一言だった。
「よし、試作機の改良版データはこれで揃ったわけだけど……。ここから先、数をこなすのが本当に面倒だよね」頭をバリバリと豪快に掻きむしりながら、クローディアは目の前のモニターを見上げた。
そこには、遙との幾度にも及ぶ過酷なテストを経て、完璧にデバッグされた『廉価版プロテクター』の仕様書が映し出されている。
あとは、この最適化された修正データをラボの高性能3Dプリンターへ流し込み、実機を形成するだけだった。ここからのステップは、いわば製品化における『評価機(デモ機)』の段階にあたる。
実際に完成品と同等の環境で運用し、要求通りの性能が出ているか、あるいは長期的な金属疲労といった「隠れた問題」がないかを見極めるのが目的だ。
したがって、初期の試作機テストよりも遥かに膨大な『実稼働データ取りの時間』を必要とする。
「物理的なハードウェア自体はプリンターでいくらでも量産できるからいいとしてさ。さすがに、ここからの膨大な評価試験を遙ひとりだけにやらせるんじゃ、時間がいくらあっても追いつかないよ。……ゆり、あそこの『試験体』たちを同時に叩き起こして、並列でテストを回そう!」クローディアは名案を思いついたと言わんばかりにうんうんと頷き、ゆりへ指示を出した。
――そう、クローディアは知る由もなかったのだ。
調整槽の中で静かに眠っていたはずの無数の試験体たちが、すでに遙の自発的なハッキングによって『常時同期された集合精神』と化し、ただの生体人形ではなくなっているという、恐るべき事態を。




