6-9 「避けるまでもありません」
6-9 「避けるまでもありません」
「よし遙、その服(試作機)を着て、一通り攻撃を受けてみておくれ。あ、今回は『シラユキ』のバリアは無しだから、わざわざ攻撃に正面から当たる必要はないよ。避けていいからね。あと、もし反撃できる余裕があるならしちゃっても構わない。腕の固定剣の耐久度も一緒に見ておきたいからね」クローディアはコントロールパネルを滑らかに操作しながら、テストスペースに立つ遙へとスピーカー越しに指示を出した。
試験の内容自体は、以前に『シラユキ』の際に行った過酷な基本三試験を踏襲している。
耐衝撃試験:既定の速度で弾丸や硬球を正面から衝突させ、装甲がどの程度破損・凹損するのかを確認する。
刺突試験:既定の質量と鋭利な形状を持った槍状の錘を発射し、チタン装甲を貫通するかを確認する。
衝撃緩和試験:様々な角度から大型ハンマーで叩きつけるか、一定の高さから本体を落下させて、内側の生体パーツ(肉体)に伝わる衝撃力を測定する。
ただし今回は、前回と大きく異なる条件が一つだけ追加されていた。
――「遙自身の戦闘技術による、任意の回避および反撃の許可」である。けたたましいブザーの音がラボに鳴り響き、試作機の初期可動試験が開始された。
まず第一段階、耐衝撃試験。複数の銃口が一斉に火を噴き、音速の弾丸が遙の身体を目がけて容赦なく殺到する。しかし次の瞬間、コントロールルームで見守る二人の天才の目を疑うような、超絶的な光景が繰り広げられた。
「避けるまでもありません」重い合金製のプロテクターを着せられているはずの遙は、冷徹にそう呟いた。
彼女は右腕を最小限の予備動作で正確に閃かせ、腕にボルトオンされた新型片手剣の刃先だけで、視認不可能なはずの飛来する弾丸をすべて「カン、カン、カン!」と完璧に叩き落としてみせたのだ。
続いて第二段階、刺突試験。強烈な油圧に押し出され、鋭利な槍状の質量兵器が遙の胸部を目がけて一直線に射出される。
「無駄です」正面から受け止めれば、試作機の胸部プレートがへこむ。そう一瞬で判断した遙は、槍の先端が装甲に触れる刹那、腕の剣の腹をわずかに掠らせた。
神業に近い「受け流し(パリィ)」により、槍が持つ全運動エネルギーの軌道をフッと横へ逸らし、完全な空振りに終わらせたのだ。
そして、最終段階である衝撃緩和試験。上空から、遙の華奢な身体を肉片ごと押し潰さんばかりの巨大な鉄槌が、猛スピードで自由落下してくる。
「――これは、手動での防御は不可能です」今の劣化スーツの強度では、剣で受け止めれば刀身が折れ、装甲で受ければ衝撃がそのまま内側の肉体へ突き抜ける。最適解を瞬時に弾き出した遙は、一切の無駄なプライドを捨ててフッと身体を翻した。
ナノマシンの超推進を頼ることもなく、ただ純粋なステップワークのみで、迫るハンマーの直撃を「スッ」と綺麗に避けてみせるのだった。




