6-8 重すぎるチタン合金と自律軽量化の喪失
6-8 重すぎるチタン合金と自律軽量化の喪失
人間用の白いプロトタイプ装甲は完成した。クローディアたちはそれをマネキンから取り外し、今度は遙に「テストパイロットとして実際にこれを着用し、稼働データを取りたい」と告げた。
なぜ、開発者であるクローディアやゆり自身が身に付けて実験を行わないのか。理由は極めて単純――「重すぎる」からだ。
いくら常識外れの頭脳を持つクローディアであっても、その肉体はただの華奢な人間の女性に過ぎない。日頃から身体を鍛えているわけでもない、完全なインドア派の研究者だ。
いくら人間用へとスケールダウンしたとはいえ、本物の『シラユキ』が持っていたナノマシンの自律軽量化(重力相殺機能)をわざわざ削ぎ落とされたチタン合金製のプロテクターは、彼女たちの筋力ではまともに立ち上がることすら不可能な質量だった。
それは、ゆりとて同様である。二人が自ら装備を纏ってテストを行うという選択肢は、最初から存在し得なかった。しかし、ここには人造人間としての頑強な生体構造を持つ遙がいる。彼女をテストパイロットとして起用しない手はなかった。
遙の肉体で実際に動いてもらい、メカの各部に設計上の不具合がないか、挙動のデータを精査する。試作機とは、本来そういう過酷な運命を背負った存在なのだ。
工業や工学の世界において、『試作機』とは、アイデアの実現性や基本機能を検証するために、開発の初期段階で最初に形にするモデルを指す。
一方、製品化の最終段階や現場への導入前に、実用に耐えうる性能や使い勝手を確認するための実機は『評価機(デモ機・テスト機)』と呼ばれ、その定義は明確に区別される。
試作機の真の目的は、設計コンセプトが正しいか、机上の計算通りに物理的に駆動するかを検証することにある。外観の美しさや製造コストは二の次であり、「とにかく動作するか」が最優先される。
そのため、一部の主要機能のみを実装した簡易版が使われることも珍しくない。最大のメリットは、量産化に向けた設計の妥当性を早期に確認し、後々になって致命的な欠陥が発覚するような「大きな手戻り」を防ぐことにあるのだ。
ロボットアニメの世界などでは、「試作機」と呼ばれる機体が戦場を我が物顔で駆け回り、後から作られた量産機を遥かに凌駕するチート性能を発揮するシーンがお約束のように描かれる。だが、あれはあくまでフィクションの「ロマン」に過ぎない。
現実の試作機とは、「理論上は動くはずだが、本当に大丈夫か? 実際に作って動かしてみて、どこにボロが出るかを確認する」ための、武骨で不安定な実験台なのだ。
アニメでやたらと無双する「試作機」は、定義上、ブラッシュアップが完了して実戦配備寸前となった高性能な「評価機」と呼ぶのが正しい。話が少し逸れたが――。
今から遙が挑もうとしているのは、文字通り「額面通りに動くかどうかも分からない試作機」の、過酷なファースト・ラン(初期可動試験)であった。




