6-2 スケールダウン(仕様縮小とデータ偽装)
6-2 スケールダウン(仕様縮小とデータ偽装)
「じゃあ、どうするのよ? 私たちの手元にデータを隠匿して、また一から別の兵器を作り直すのかしら? ……そんな悠長な時間は、恐らく人類には残されていないわよ」ゆりは、クローディアの頭の中には既に次の「答え」が出ていることに気づいていた。これはあくまで、仕様策定のための事実確認に過ぎない。
「まぁ、簡単なことさ。今ある最高傑作のシステムをそのまま使うのだよ。どのみち『シラユキ』の全機能を解放したところで、普通の人間には脳の処理が追いつかなくて扱えない代物さ。要は、生身の人間でも扱えるように、意図的に仕様を落としていけばいいんだ」クローディアは不敵に笑い、シラユキの設計を大幅に『スケールダウン』させれば良いと言い放った。
スケールダウン――主にシステムの「規模の縮小」や「スペックの引き下げ」を意味する言葉だ。工業や情報技術の分野においては、サーバーのCPUやメモリ性能を落として運用コストを削減したり、プロジェクトの要求仕様をあえて縮小したりすることを指す。今の彼女たちにとって、それは国家を欺くための最も合理的な手段であった。
「そうね、堅実な判断だわ。そうなると、上層部に提出するデータから、シラユキの元データや遙のログを読めないようにするための、高度な偽装工作も必要よね」
「そこはゆりの得意分野だろう? 私のブラックボックスの罠コードを仕込んで、他人がハッキングしたら自動的に破綻するように工作しておくれよ。私はその間に、シラユキの性能を劣化させた『廉価版』の設計を考えるとしよう」二人はそう言って、それぞれ自分のメイン端末へと向き直り、テキパキとキーボードを叩き始めた。
電子音だけが室内に響き渡る。主人のクローディアから「好きにしてていいよ」と言われていた遙は、黒いカーボンファイバースーツを纏った姿のまま、研究室の中を物珍しそうにあちこち見て回っていた。やがて、遙は部屋の奥へと歩みを進める。
そこに並ぶのは、巨大な液体カプセル群――調整槽の青白い光の中で静かに眠る、自分と全く同じ容姿をした無数の試験体たちだった。遙はその前で静かに足を止め、硝子越しに広がる自らの「起源」を、ただじっと観察し始めるのだった。




