6-1 禁忌の命と戦略規模の超兵器
6-1 禁忌の命と戦略規模の超兵器
しかし、温かいコーヒーを飲み終えて一息ついた二人は、すぐに冷徹な現実へと引き戻されることとなった。
遙が披露した、あの驚異のびっくり箱ショー――「3つのハンマーをそれぞれ異なる方法で消滅させ、自ら空を飛んでみせた」という規格外の現象。それに驚き、感動したのは確かだ。
けれど、それによって根本的な問題は何一つ解決していない事実に、二人は否応なく気づかされる。
「ねえ、マリー。これ……結局、天野の上層部から依頼された『成果物』として、そのまま世間に出せると思う?」返ってくる答えなど、最初から分かっている。それでも、確認せずにはいられずに問いかけるゆり。
「いや、これは出せないね。それに、出す気もさらさらないよ。こんなに面白くて最高なもの、あんな奴らに渡してやるものか。ふふふ」クローディアは不敵な笑みを浮かべ、愉しげにそう言い放った。
二人が何を指して言葉を交わしているのか。それは言うまでもなく「遙」という存在であり、彼女が纏う「シラユキ」のシステムそのものである。
確かに遙一人を実戦に投入すれば、アノマリーの殲滅など容易に成し遂げるだろう。だが、このシステムに詰め込まれた、人類の常識を何世紀も飛び越えた「最高に不味いであろう技術の塊」を、おいそれと公の場に晒すわけにはいかなかった。
まず、遙という存在そのものが、人道的に完全にアウトである。人造人間、クローン技術。それは人の手によって生み出された、禁忌の命に他ならない。遙の存在をそのまま世間に公表すれば、学会や国際社会がどのようにひっくり返るか、火を見るより明らかだった。
次に、彼女が纏う防護装甲「シラユキ」だ。ナノマシンの液状化格納、磁気浮上、プラズマ推進、そして結合エネルギーを解除して物質を喰らう捕食消滅フィールド。
これらはもう、一兵士の装備という枠を完全に逸脱している。たった一つで、大国を物理的に滅ぼしうる破壊力を秘めた、戦略規模の超兵器なのだ。これを軍の上層部に公表しようものなら、どうなるか。
人類はアノマリーに滅ぼされる前に、この禁断の技術を巡る国家間の戦争によって、別の意味で自滅の道を辿るに違いない。




