5-5 【対アノマリー兵器開発計画】
5-5 【対アノマリー兵器開発計画】
白川ゆりが開いたメールの内容は、文字通り驚天動地のものであった。画面の最上部には、鮮血を思わせる赤字で大きくこう刻まれていた。――【対アノマリー兵器開発計画】。
ゆりは我が目を疑った。これは最高クラスの軍事機密ではないのか。私のような一介の部外者が目にしていい情報なのか。背筋を冷たい悪寒が駆け抜けていく。
本文に綴られていたのは、その【対アノマリー】というテーマを起点として、水面下で極秘裏に開始されている戦闘システムの詳細な開発経緯だった。しかし、その中身は従来の近代兵器の常識を根底から覆す、あまりにも異質な視点に満ちていた。
「生身の人間に強固なナノマシンの鎧を纏わせ、刀剣などの近接武器で敵を直接叩き斬る」銃火器やミサイルが戦場を支配するこの時代に、あえて中世のような近接格闘戦を挑むという仕様。
この時点で、普通の軍事学者であれば「正気を疑う」と一蹴するような狂気の沙汰である。ゆりは最初、質の悪い誰かが自分を揶揄っているのではないかと疑った。しかし、添付されていた膨大な暗号化資料を一つずつ紐解いていくうちに、その疑念は驚愕へと変わる。
そこには兵器の基本仕様、エネルギー計算式、そして信じられないような稼働実績が、恐ろしいほどの緻密さと論理的整合性をもって記載されていたのだ。
嘘のような計画、狂った仕様、そして完璧すぎる実績数値の調和。それらすべてが、これが紛れもない『真実』であることを冷酷に物語っていた。
(もしかして……この国家を揺るがすような恐ろしい計画とシステム設計を、クローディア・マリ・天野は、たった一人で成し遂げたというの?)もしそれが本当なら、彼女は天才を通り越して、本物の「怪物」だ。そして、メールの締めくくりには、こう記されていた。
『白川ゆり博士。君のナノマシンに関する論文はすべて読ませてもらったよ。実に美しく、エキサイティングだった。ただ、実験データを見る限り、君は現状の研究で行き詰まっているのではないかな?そこで提案だ。実は私も、自分の工学理論だけではこれ以上のブレイクスルーを生み出せず、壁にぶち当たっている。もう、どうしようもないくらいにね。……どうだい、私を助けてくれないかな?』あまりにも突っ込みどころが多すぎる。まず、この計画内容は天野財閥、ひいては国家の絶対最高機密のはずだ。
もし自分がこれをコピーして外部にリークしたらどうするつもりなのだろうか。
リスク管理が全くなっていない。それほどまでに狂った天才が遺した最後の言葉が、あまりにも素直な「助けて欲しい」という懇願だった。
(色々と言いたいことは山ほどあるけれど……。このおかしなメールの主に、一度会ってみようかしら)いつしか他者を信用することをやめていたはずのゆりだった。
しかし、科学者として心の奥底で燃え上がる、抑えきれない知的好奇心。それに突き動かされるようにして、彼女はその奇妙な招待に応じる決意を固めるのだった。




