↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
67/365

5-1 ブラックボックスの罠:白川ゆりの原点

5-1 ブラックボックスの罠:白川ゆりの原点


白川ゆり――。今やナノマシン工学の世界的権威として、その名を知らぬ者はいない天才科学者である。彼女の歩んできた道は、孤独と執念に彩られていた。


まだ幼い頃、不慮の交通事故で最愛の母が急逝。以来、父と娘の二人三脚の生活が始まった。しかし、心の支えであった父もまた、ゆりが大学を卒業する前に病でこの世を去ってしまう。


父・白川博(ひろし)もまた、当時の医療ナノマシン工学分野において、世界にその名を轟かせた高名な研究者であった。偉大な父の背中を見つめて育ったゆりが、同じ科学の道を志すようになったのは、必然の成り行きだったと言える。


「ナノマシンはね、ゆり。人間の身体の悪いところを、全部治してくれるんだ。将来、それはそれはすごいことができるようになるんだよ」それが父の口癖だった。それを聞くたび、幼いゆりは元気よく声を弾ませた。「わたしも、パパと一緒にナノマシンつくる!」


挿絵(By みてみん)


「そうか。じゃあ、父さんと一緒につくろうね」博は嬉しそうに目を細め、愛おしそうにゆりの頭を何度も撫でるのだった。しかし、その約束が果たされる日は来なかった。


「医者の不養生」とは、まさに父のことだった。博は寝食を忘れて研究に没頭していた。ゆりとの生活を決して疎かにはせず、娘の前では常に優しい笑顔を絶やさなかったが、その肉体はとうに限界を超えていたのだ。


「病院に行く暇があるなら研究を進める。検査なんて後回しでいい」そんな研究者特有の悪癖が災いし、父は志半ばで病魔に倒れた。


遺されたゆりは、まるで何かに取り憑かれたように、それまで以上に研究へ没頭していった。最愛の父を失った底知れない孤独と悲しみを、科学の計算式で埋めて紛らわせたかったのが、彼女の本音だったのかもしれない。やがて、圧倒的な研究実績と解析データを伴う彼女の論文は、瞬く間に学会を席巻していく。


しかし、輝かしい功績を積み上げる彼女の名誉を、妬む愚者たちが現れた。彼らは甘言を弄してゆりに近づき、彼女の血と汗の結晶である手柄を横取りして、自らの功績として発表しようと画策したのである。だが、彼らは決定的なことを見くびっていた。


彼女の研究コードには、凡人には決して解析できない独自の理論――完璧な「ブラックボックス」が組み込まれていたのだ。


そこには巧妙な罠が仕掛けられていた。彼女の理論の表面だけを模倣して再現しようとすると、システムが致命的に自己破綻するように設計されていたのである。


何も知らずに盗作を発表した者たちに対し、ゆりは学会の壇上から、冷徹にその致命的な矛盾を突きつけた。盗用した者たちは、それが「自ら開発したものではなく、盗んだものである」という弁解すらできず、文字通り社会的に破滅していくのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。