4-10 能動的プレゼンテーション(意思の証明)
4-10 能動的プレゼンテーション(意思の証明)
ゆりはその時、ようやく自分の中に渦巻いていた違和感の正体に気がついた。今まで、遥と「あまりにも自然に、普通に会話ができていたこと」――その事実そのものに、彼女の生存本能が警鐘を鳴らしていたのだ。
本来、コンピューターや人工知能というものは、命令されたタスクを完了すれば、次の指示が下るまで完全に沈黙し、待機状態に入る。事実、これまでの試験体を用いた実験では、すべての個体がタスク終了と同時に人形のように微動だにしなくなっていた。
だが、今の遥はどうだ。これは、遥がリアルタイムに自律学習を繰り返し、今この瞬間も爆発的な進化を遂げていることを意味していた。
先ほどの3基のハンマーへの対処にしてもそうだ。遥は最初の実験と同じく、あの飛行するブレードだけで処理すれば安全かつ容易に遂行できたはずだった。
それなのに、遥はあえて異なる3つのアプローチをとった。まるでクローディアやゆりに対して、「私にはこれ以外の選択肢もあります」と、自らの可能性を提示し、プレゼンテーションしているかのように。いや、それこそが彼女の意図なのだろう。
そして何より、遥は任務完了後に自分から「まだ続けますか?」と質問を投げかけてきた。この能動的なアプローチこそが、遥が既に『自らの意志で思考し、行動している』揺るぎない証拠だった。
「マリ、気がついた? 遥の行動。……この子、自分で考えて動いているわよ」
「おや、ゆりも気がついたのかい。そうだね。遥は最初の実験の時から、かなり話し方のトーンが変わってきている。実に面白い。それに、先ほどの戦闘実験のプロセスも興味深いね。あえて別々の方法でハンマーを片付けてみせた」そう言って、クローディアは肉食獣のような笑みを浮かべ、ゆりに視線を向けた。
「ええ。最初はあの飛ぶパーツだけで処理するのかと思って見ていたわ。けれど違った。まるで私たちに、別の解答を見せつけるように……。それに、自分自身で飛んだわ」ゆりもまた、驚きと恐怖の混ざり合った視線をクローディアに向け返す。
「飛んだねえ! いやあ、遥は飛べるんだ。これは物理学的にも実に興味深い。しかし、アレだねえ……」クローディアは顎をしゃくり、遥の頭上で静かにホバリングしている美しいパーツ群を見上げた。ゆりもつられるように、宙でピシピシと微細な放電現象を繰り返す金属片に視線を向ける。
「いい加減、アレとかコレとか呼ぶのも風情がないし、そろそろ名付けでもしようかな」
「まあ、確かにいつまでも『飛んでいるアレ』ではデータ管理上も不都合だわね。……何か、システム上にプリセットされている開発名称とかはあるのかしら、遥?」ゆりは端末の手を止め、静かに佇む少女へと問いかけた。




