4-6 ナノ・スラスター(微小推進器)の風切り音
4-6 ナノ・スラスター(微小推進器)の風切り音
「ふふふ、よし遥。その浮いているやつらを、今度は実際に動かして見せてくれないか?」目の前で浮遊するパーツを面白そうにつついていたクローディアが、顔を上げて遥を促した。
「マリ、分かりました。動かしますね。今回はマリとゆりが見やすいように、速度を落として旋回させます」遥が応じた瞬間、彼女の周囲に滞空していたパーツ群が一斉に滑り出し、滑らかな円を描いて周回を始めた。それを見たゆりが、感嘆の息を漏らす。
「不思議な光景よね……」低速で巡航するパーツは、大気との摩擦と磁界の激しい干渉により、そのエッジから微かに青い光を放っていた。それは暗い研究室の中に、まるで幻想的な光の輪を生み出しているかのようだった。
「これは確かに……そして、美しいね」クローディアもまた、少年のように目を輝かせてその光景を見つめていた。
「遥、ここから徐々に速度を上げていってくれないか。そうだな……最終的には、あの鉄のハンマーを細切れにした時の最高速度まで」クローディアが注文をつけると、遥の視線がすっと鋭くなった。
「分かりました。マリ、ゆり、見ていてください」遥の言葉と同調するように、周回するパーツが加速度的にその速度を跳ね上げていく。
やがて室内には「キィン」という、鼓膜を鋭く刺すような高周波の風切り音が響き渡った。超高速の世界へと突入したパーツはすでに本来の輪郭を失い、青白い光の尾を引く不気味な残像へと変貌していた。
「どういう原理なのよ、これ……。もう、さっきから遥に驚かされてばかりね」ゆりは両手を上げて、冗談めかしたお手上げのポーズをとる。
「うわあ、これは改めて間近で見ると本当におもしろいな! いやあ、一体どうなっているんだい? 遥、教えておくれ!」クローディアはもはや自力での考察を放棄していた。ここに答えを知っている本人がいるのだから、聞いた方が早いというド直球の割り切りで、遥に問いかける。
「マリ、これは『流体力学・マイクロ推進』で飛行しています」遥の口から語られたのは、肉眼では視認不可能な超小型推進器によって空気を押し出す理論だった。
ブレードの表面やエッジに埋め込まれた無数のナノマシンが、高効率の空気噴射――あるいは大気を瞬時に電離させたプラズマ噴射を行うことで、大気圏内において圧倒的な三次元機動力を実現する。
パーツの加速時に室内に響き渡った「キィン」という独特の風切り音、そして周囲の機材を揺らす強烈な微風は、まさにこの超小型推進器が限界駆動している証拠であった。




