4-3 瞬きの再装着(シラユキ・リ・アセンブル)
4-3 瞬きの再装着
期待を胸に灯らせ、クローディアが遥を見上げて言葉を投げかけた。
「遥、今度はその床の装甲を元に戻して、もう一度身に纏ってみせてほしい」
「はい、マスター。――『シラユキ』を再装着します」遥が静かにそう応じた、まさにその瞬間だった。
床にうず高く積み重なっていた純白のパーツ群が、一斉に鮮やかな光を放ち始めた。それだけではない。クローディアとゆりが手元に持っていたはずの装甲の破片までもが網膜を焼くほど眩しく明滅したかと思うと、次の瞬間には、まるで煙のように二人の手のひらから完全に掻き消えていた。
光の奔流がすっと収まったとき、実験場の中心には、何事もなかったかのように元の完璧なシラユキの白殻を纏った遥の姿があった。
「一体、どういう原理なの……? 光ったと思ったら、次の瞬間には完璧に戻るなんて。そういえば、私たちが握っていたパーツもいつの間にか綺麗に消え去っているわね」遥の美しい直立不動の姿を見つめながら、ゆりはぶつぶつと独り言のように科学的な分析のラリーを脳内で始め、コンソールのデータを狂ったようにスクロールさせる。
「くくく、面白い! 遥、君は本当に、どこまでも私の想像を飛び越えて面白いよ!」当惑する相棒をよそに、クローディアは興奮を隠せない様子で遥へと一歩詰め寄った。
「一体どういったプロセスなんだい、この謎の結晶体は! 素晴らしい、私の脳細胞の興奮が止まらないよ!」主の熱烈な称賛を真っ正面から受け止めた遥は、表情一つ変えず、ただ生真面目に頭を下げた。
「はい、マスター。ありがとうございます」そのあまりにも教科書通りで生硬な返答を聞いたクローディアは、少しだけ眉を下げ、さらに遥の至近距離へと歩み寄る。
「『マスター』だなんて、固い固い。遥、私のことは今後、ただの『マリ』と呼んでおくれ。ゆりや私の親しい間柄の人間はみんな、私をそう呼んでいるんだ」そう言って、クローディアは悪戯っぽく微笑むと、遥の純白の外殻の隙間から覗く白いおでこを、自身の指先でツンと優しくつついた。「はい、マリ。以降は、そのように呼ばせて頂きます」
「いやぁ……まだ固いな」クローディアは苦笑し、今度は遥の両肩にポンと優しく手を置いて、諭すように言葉を続けた。
「その話し方だよ。私たちの周りに、そんなロボットのような喋り方をする人間がどこにいるいだい? もっとこう、友達みたいにフランクに話しかけてくれないかなぁ。……ふふ、さすがに目覚めたばかりの君には、まだ無理な注文かな?」クローディアは遥と至近距離で正面から向き合ったまま、顔だけを後ろのゆりへと向けた。
「ゆり、この喋り方は、君の基本プログラムのせいじゃないのかい?」
「ん?、どうでしょうね」コンソールから視線を外し、ゆりは両肩をすくめて溜め息をついた。
「そもそも私は、この子に『自我』を宿すような高位の処理コードなんて、一文字も書き入れていないのよね。言葉を喋ること、名前を自認すること、その状態自体が、すでに私の設計上の『想定外』なのよ」そう言ってゆりは、お手上げだとばかりに両手を広げてみせた。
ナノマシン工学の最高権威である白川ゆりをもってしても、この遥という少女の肉体に宿り始めた「人間味」の正体については、科学の範疇を完全に超えた奇跡として、ただ苦笑いを浮かべるしかなかった。




