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3-6 全試験体同期の戦慄

3-6 全試験体同期の戦慄


ゆりは呆然としたまま、目の前の二人を凝視することしかできなかった。


(嘘……あり得ない。そんなことが、あっていいわけがない。いや――もし、マリの言うことが正しいのだとしたら……)冷たい思考が脳裏を駆け巡る。


(今、私は何をした? 確かに超進化個体からデータを回収した。そして、そのデータは即座に……他のすべての試験体へ複写、同期している――)その結論に達した瞬間、ゆりの顔から血の気が一引きに引き、死人のように顔面蒼白になった。


(待って。嘘でしょう、待ってよ。それって、あの調整槽の中で眠っている無数の試験体すべてが、今この瞬間から、この子と同じことをできるって意味じゃないの……!?)鳥肌が立つような戦慄。ゆりはここにきてようやく、自分達がどれほど恐ろしい怪物を世界に産み落としてしまったのかを、本当の意味で理解したのだった。


「マリ、悪いことは言わないわ。今すぐ、その個体も含めて……すべてを抹消すべきよ!」ゆりは引きつった声で叫び、クローディアの胸ぐらに掴みかかるようにして詰め寄った。


「よく考えて! その個体は、私達ですら理論を完全に解明できていない力で、あの強固な試験用ハンマーを粉々に砕いて、消滅させたのよ!? 危険すぎるわ、制御なんてできっこない!」極限の恐怖に取り乱し、必死に食ってかかるゆり。そんな彼女を、クローディアは拒絶することなく、そっと両腕で優しく抱きしめた。耳元で囁かれるクローディアの声は、驚くほど穏やかで、温かい。


「落ち着いて、ゆり。君が何を危惧しているのかは、ちゃんと分かっているよ。確かに私達は、自分達の想定すら遥かに超えるものを世に生み出してしまったのかもしれないね」クローディアはゆりの背中を優しくなだめるように、ゆっくりと言葉を紡ぐ。


「でも、大丈夫さ。忘れたのかい? 今ここには、凡人の領域をとうに超越した天才科学者が二人もいる。ゆり、君と私だ。今までだって、どんな難題も二人で乗り越えてきたじゃないか。……いや、紫苑(しおん)姉や唯(ゆい)にも、ずいぶんと手伝ってもらったけれどね」クスリと小さく笑った後、クローディアはさらに声を優しく潜めた。


「私はね、これからもゆりと一緒なら、どんなことだって成し遂げられる気がするんだよ。――ゆりは、そうは思わないかい?」そう言ってクローディアはゆっくりと抱擁を解き、至近距離でゆりの瞳をまっすぐに見つめた。


その揺るぎない自信に満ちた双眸を見つめ返すうちに、ゆりの心のパニックは急速に収まっていく。(……ずるいわ。いつもそう。この人のこの果てしない自信に、私は何度も救われて、ここまで来ちゃったのよ)ゆりは小さく息を吐き出すと、観念したように、けれど確かな信頼を込めて微笑み返した。


「……ええ、そうね、マリ。私達二人なら、本当に何だってできてしまいそうな気がするわ」「ああ、その意気だ」クローディアは満足そうに深く頷いた。


「それに、君の危惧ももっともさ。そもそも、こんなに面白くて素晴らしい最高傑作を、他人に渡す気なんてさらさらない。私達のものだ。誰かに盗まれるなんて、想像するだけで虫酸が走るよ。――そうだね、もし部外者が無理に解析しようとしたら、データごと盛大に木っ端微塵に爆発するような仕掛けでも施しておこうか」ゆりの肩を抱き寄せながら、クローディアは悪戯っぽく笑う。


それがどこまでが本気で、どこまでが冗談なのか――その底知れない笑みを前に、ゆりはただ、苦笑いを浮かべるしかなかった。

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