3-4 雨の日の拾い犬と超進化個体
3-4 雨の日の拾い犬と超進化個体
「ゆり、お願いだよ。私にはどうしても、この個体が特別に思えてならないんだ」クローディアのその表情は、まるで雨の日に捨て犬や捨て猫を拾ってきて「飼ってもいい?」と親にねだる子供のようだった。それを見たゆりは、あからさまに肩をすくめてみせる。
――それって結局、最終的に私が全部面倒を見る羽目になるのでは? という、極めて現実的で厄介な未来が脳裏をよぎったからだ。自分に降りかかってくることが確実な面倒ごと。それを回避すべく、ゆりはなんとか会話の舵を元の軌道へ戻そうと試みる。
「マリ、あなた本気で言っているの? 試験体に名前なんて付けたら情が移って、実験どころじゃなくなるわよ。それにシラユキなら、他のどの試験体だって装備できる。その個体に固執する理由が、ほかに何かあるの?」問い詰められたクローディアだが、彼女はゆりとはまったくベクトルの違う天才だった。
言語化できない『野生の勘』とでも言うべきか、彼女はいつも、何か面白そうな気配がする方へと突き進みたがる。そしてその直感は、総じて物事の「アタリ」を引き当てるのだった。
今、クローディアはこの超進化した個体から、たまらなく魅力的な『面白そうな気配』を感じ取っている。だからこそ、彼女にも引く気は毛頭なかった。
じっと見つめ合う二人だったが、結局、折れたのはゆりの方だった。
こうなったときのクローディアが、梃子でも動かなくなることを誰よりもよく知っていたからだ。
「マリ、もうどうなっても知らないからね」ゆりは諦めたように溜め息をつくと、端末の画面を叩き、シラユキを纏ったままの超進化個体を調整槽から搬出するシーケンスを開始した。
「ゆり! ありがとう、愛しているよ!」
「はいはい、分かったから」呆れ顔のゆりと、満面の笑みを浮かべるクローディア。
二人は並んで、静かに開き始めた調整槽から這い出てくる試験体を、ただじっと見つめていた。




