2-16 戦乙女の誕生(シラユキ・ライジング)
2-16 戦乙女の誕生
異質な全身凶器を纏った試作機だからこそ、何か面白いバグでも起きるのではと淡い期待を抱いていたクローディアたちだったが、終わってしまったものは仕方がなかった。
死を免れない中枢――首への直撃。二人が「次こそは、ちゃんと装甲のハードポイントへ合理的にボルトオンできる武器を作ろう」と、次の設計について言葉を交わし始めた、その時だった。
「……っ!? まり、モニターを見て!」ゆりの悲鳴のような声に、クローディアの視線がコンソールへと引き戻される。計測モニターの数値が、突如として真っ赤な警告色に染まり、異常なまでのグラフのスパイクを描き始めていた。
急いでメインモニターを切り替えると、ガラスの向こうの実験場――冷たいコンクリート壁に槍で縫い付けられ、完全に事切れていたはずの試験体の肉体が、網膜を焼くほどの眩い光を放ち、激しく輝いていた。
「な、何が起こっているの……っ!?」ゆりは青ざめた顔で、猛烈な勢いで端末のキーボードを叩き、ログの確認動作に入る。クローディアは言葉を失い、ただ画面のなかで神々しく明滅する試験体のシルエットを、じっと凝視し続けた。
「意味がわからないわ……! あり得ない、こんな出力、理論上は絶対に叩き出せるわけがないもの!」表示されたエネルギー波形の数値は、彼女たちが想定していた限界値を数千パーセントも上回る、測定不能の領域へと突入していた。
(――へぇ。ゆりがこんなに余裕をなくして慌てふためく姿なんて、滅多に見られるものじゃないな)クローディアは不謹慎ながらも、隣の相棒のパニックぶりにそんな冷徹な感銘を覚えていた。
そうして二人が画面に釘付けになっているうちに、実験場の乱高下していた光の奔流が、すっと静まり返っていく。光の残滓が完全に霧散したその場所に、彼女は、何事もなかったかのように泰然と直立していた。
壁に刺さっていたはずの凶悪な鋼鉄の槍は、影も形もなく消滅している。代わりにその少女が身に纏っていたのは、先ほどまでの歪で無骨なブレードアーマーなどでは決してなかった。
それは、汚れなき純白に輝く、流線型のあまりにも美しい装甲。まるで北欧の神話に登場する戦乙女――『ヴァルキリー』が、戦場を駆けるために神に与えられたかのような、息をのむほど洗練された究極の外殻だった。
肉体の死すらもマテリアルへと強引に変換し、生と死、有機と無機の境界を完全に超越してしまった、究極の人造生命。――そう、これこそが。
後に二人の運命の盾となり、世界を揺るがすことになる最強の存在、『シラユキ』がこの世に誕生した、まさにその歴史的瞬間であった。




