2-12 城壁(スーツ)のみの完成:砲台(武器)を忘れた天才
2-12 城壁のみの完成:砲台(武器)を忘れた天才
実験室の中央、新しく開発された改修型装甲服を纏ったマネキンを前に、クローディアは腕を組んでご満悦の表情を浮かべていた。
「うむ……。少し、盛りすぎてしまったかもしれないね」そう言って肩をすくめてみせるクローディアだったが、すぐ横からゆりの極めて冷静で鋭いツッ込みが飛んできた。
「ちょっと、どころじゃないわよ。かなりの大間違い。もう最初の原型を微塵も留めていないじゃない」ゆりの指摘通り、マネキンが身に纏っている代物は、全身にこれでもかと多段装甲がレイヤードされた結果、もはや「防弾プロテクター」という領域を遥かに超越していた。
見ようによっては、重厚な軍用パワードスーツにしか見えない外見へと文字通り変貌を遂げていたのだ。
「いやぁ、デザインを考えていたら、ついつい興が乗ってしまってね」てへぺろ、と可愛らしく舌を出してごまかそうとするクローディア。しかし、ゆりの冷ややかな追求の手は緩まない。
「マリ……あなた、これ、わざとやっているの?」「何がだい?」クローディアは心底不思議そうに首を傾げ、大きな瞳でゆりを見つめ返した。エンジニアという生き物は、往々にしてこういう過ちを犯しがちである。
開発に没頭するあまり、いつの間にか「手段」と「目的」が完全にすり替わってしまうのだ。ゆりは「全く、仕方ないわね」と呆れたように苦笑しながら、核心を突いた。
「あなた、この重装甲のどこを見ても、武器が一つもマウントされていないわよ。……また、生体に両手で持たせるつもりかしら?」
「…………あ」ゆりに言われた瞬間、クローディアは文字通り「鳩が豆鉄砲を食ったような顔」をして完全にフリーズした。そして、ようやく思い出すのである。そもそもこの改修は、「意識を失った試験体が武器を手から落とさないようにするため」に始めたことだったはずだ、と。
「あ?、やっちゃった……」クローディアは頭を抱え、本日二度目のてへぺろを披露した。どうやら、防御力の向上と追加装甲のパズルに夢中になりすぎて、最初の目的であった「武器を固定する」というプロセスを完全に脳内から消去していたようだった。
この場合、本来の目的は何だったか。武器を手で「持たせる」のではなく、装甲へ直接「着ける」ことだ。そのための手段として、装甲の各部に拡張用のハードポイントを設け、そこに片手剣や小盾を装着するはずだった。
しかし、あれもこれもと機能を詰め込むのが楽しくなってしまったクローディアは、基盤となる城壁だけを完成させ、肝心の砲台(武器)を乗せ忘れるという、天才らしからぬ初歩的な大ポカをやらかしてしまったのだった。




