2-9 金属杭を喰らう素体
2-9 金属杭を喰らう素体
紫苑と唯が去った後、再開された実験の基礎プロセスそのものは、それまでと何ら変わりはなかった。新しい設計コードを注ぎ込まれた試験体たちに装備を着せ、実験場にカカシのように直立させ、それらをあらゆる手段でただ無慈悲に破壊していくだけの作業だ。
ある個体は全身を無数の銃撃で蜂の巣にされて崩れ落ち、ある個体は鋭利な杭で肉体ごと貫かれて床へと無残に縫い付けられ、ある個体は巨大な質量で原型を留めないほどミンチ状に圧殺され、ある個体は床一面にどす黒い血の海を広げて転がっていた。
しかし、ここからの光景は、先ほどまでの実験とは決定的に異なっていた。
即死さえ免れていれば、血の海に横たわる少女たちの肉体がピクピクと不気味に痙攣し始め、凄まじい速度で「細胞と外装の高速再生」が執行されるのだ。
ただし、その再生が及ぶ範囲は、個体のスペックや破損状況によって大きく狂いが生じていた。最初にブレイクスルーを果たした個体のように、衣服もプロテクターも完全に元通りとなって美しく直立するもの。
肉体は完全に直ったものの、カーボンファイバー製のインナースーツだけを纏った状態で再生を終えるもの。装備品を何一つ修復できず、一糸まとわぬ生まれたままの姿で復元されるもの。
そして、ピクリとも動かず破壊されたまま横たわっているもの。完全に元通りになった個体は、何事もなかったかのように起き上がると、その場で静かに待機状態へと移行する。
インナー姿の者も、裸の者も同様だ。自身の衣服が消え失せていることなど、意思を持たぬ彼女たちには知る由もなかった。一方で、激しい損壊のまま微動だにしない個体は、すでに生命活動を停止していた。当然、死人にナノマシンは駆動せず、修復が始まることはない。
なかでも、クローディアとゆりの目を釘付けにしたのは、鋭利な杭で地面に串刺しにされていた個体だった。即死しなかったその少女は、生体内ナノマシンが急速に駆動を始めると、驚くべきことに、自分を床に縫い付けていた巨大な『金属杭』そのものを、傷口から細胞内へと強引に巻き込み、ドロドロに融解させて『取り込んで』しまったのだ。やがて杭は綺麗に消失し、少女は平然と立ち上がった。
手元の解析モニターを精査すると、蜂の巣にされた個体の体内に残留していた無数の鉛の弾丸や鉄球までもが、綺麗に消滅していることが判明した。(――やはり、そうか。衣服やプロテクターが復元されなかった個体は、肉体の損傷が激しすぎたんだわ。
城壁(装備)を直すためのマテリアルが足りず、装備品側のナノマシンまで全て動員して、肉体という『家』の修復リソースに変換したのね)そして何より、体内の銃弾や、自分を貫いていた金属杭という『外部の異物』すらも、彼女たちの新型ナノマシンは瞬時に分解し、自らを直すためのマテリアルとして「現地調達」してみせたのだ。
常人であれば精神を崩壊させ、一瞬で目を背けるような凄惨な生命の融解と再構築。その地獄絵図のなかで、クローディアとゆりは、アノマリーの肉すらも喰らって無限に再生し続ける『究極の不死の怪物』の誕生を、確信に満ちた瞳で見つめ続けていた。




