2-8-8 アノマリー捕食理論:前人未到の創世記
2-8-8 アノマリー捕食理論:前人未到の創世記
――現地調達すればいいのよ。おっとりと放たれた紫苑のその言葉に、クローディアとゆりは、今度こそ脳細胞の芯まで焼き切れるような激しい電撃に貫かれた。
「――来た。来た、来た、来た! これだよ、ゆり! 『現地調達』だ!」クローディアは弾かれたように立ち上がると、歓喜に瞳をギラつかせた。
「ええ、そうねマリ。資源がないなら、最初から『ある場所』から引っ張ってくればいい。無ければ、あるようにすれば良いのよ!」興奮する二人を前に、唯は完全に置いてけぼりにされ、不思議そうに首を傾げていた。(マリ姉の言っていることは、まだ分かるよ。現地で臨時の物資の手配とかをするんでしょう? でも、ゆりさんの言っていることが全然わからない。無ければあるようにする? ……え? そもそもこれ、お菓子の話だよね? どういうこと!?)頭のなかに無数の疑問符を浮かべ、目をぱちくりとさせる唯だった。
そんな狂乱と混乱のなか、紫苑は手首の時計に静かに目を落とした。随分とここで話し込んでしまったようだ。
「あら、もうこんな時間。そろそろ私たちは帰るわね」紫苑は立ち上がると、衣服の皺を優しく伸ばし、微笑んだ。
「マリ、ゆりさん。研究、頑張ってね」
「あ、待ってよ紫苑姉! じゃあ僕も帰る! なんだかマリ姉、今にも研究室に籠もって実験を始めたくてウズウズしてる顔になってるし!」紫苑において行かれまいと、唯はぴょんとソファから飛び跳ねるようにして席を離れた。
嵐のようにやってきた二人の姉妹は、そのまま賑やかに部屋を去っていった。残されたクローディアとゆりにとって、それはまさに怒涛の、そしてこれ以上ないほど有意義な時間だった。
おそらく紫苑は、限界まで煮詰まっていた二人の様子を察し、わざとあのタイミングで話を振ったのだろう。彼女たちの思考を解きほぐし、新たなブレイクスルーのきっかけを与えるための、完璧な助け舟だったのだ。
――現地調達。無いなら、今ここにある場所から奪えばいい。もし、戦場に無限に湧き出る『敵対勢力』からリソースを奪い取ることができれば、味方の継戦能力を限界突破させると同時に、相手を弱体化・無力化させることができる。
まさに一石二鳥の完璧な戦略だ。口で言うのは、極めて簡単だった。しかし、いざそれを機能として人造生命体に実装するとなると――それは人類の科学が未だ足を踏み入れたことのない、前人未到の超難問となるのだった。




