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2-8-7 捕食する素体:アノマリー喰いの創世記

2-8-7 捕食する素体:アノマリー喰いの創世記


一方的に質問をされ続けていた唯は、今度はこっちの番だとばかりに、大きな瞳を輝かせて紫苑に詰め寄った。

「んー、僕ばかりじゃなくて、紫苑姉の意見も聞きたいな!」

「ふむ。言われてみれば、私も紫苑姉の冷徹な見解というやつが聞きたいね」クローディアもまた、興味深そうに身を乗り出して問いを重ねる。


挿絵(By みてみん)


ペンを握ったままの白川ゆりは、天野財閥の統制役が何を語るのかと、息を潜めて拝聴の姿勢で静観した。


挿絵(By みてみん)


「そうですね……。私ならまず、『行動する時間を厳格に決めておくこと』でしょうか」紫苑は人差し指を立て、おっとりとした口調の中に、医師としての明確な合理性を滲ませた。


「一時間なのか二時間なのか。はたまた一日なのか二日なのか。時間という絶対的な縛りがある以上、それ以上の無理は絶対にさせないこと。作戦行動時間、ひいては機体と生体の『稼働限界時間』の策定です。いかにナノマシンが進化しようとも、それを宿すベースが人間を模している以上、無限に戦い続けられるわけではないのですから」


「ふむふむ。至極まっとうだね」とクローディアが頷く。


挿絵(By みてみん)


「次に、『何をもって作戦の達成とするのか』、明確な目標を定義することでしょうか」紫苑は静かに言葉を続けた。


「目的を曖昧にしたまま戦場へ送り出せば、終わりなき泥沼の消耗戦に引きずり込まれるだけです。これは対象のデータを持ち帰るだけの『偵察』なのか。それとも、目標を完全に駆逐する『殲滅』なのか。行き当たりばったりで戦線を維持すれば、当然のように補給路は寸断され、戦力は干からびてしまいます」


作戦目標と稼働限界の明確化。

それは軍事の常識であり、極めて現実的な正論だった。


「えーっ、紫苑姉の回答、至極普通すぎてつまんない! ぶーぶー!」期待していた突飛なアイデアが出ず、唯は両頬を膨らませて露骨に不満を表明する。


挿絵(By みてみん)


ゆりは(まぁ、科学者として、組織の人間としては当たり前の前提よね)と内心で同意しながら、メモ帳の隅にさらさらと「限界時間」「明確なターゲット」と書き留めていった。しかし、天野紫苑の真骨頂はここからだった。


「ですが――想定外の事態というのは、戦場のどこにでも転がっているでしょう?」紫苑は、楽しそうにぶー垂れる唯の頭を優しく撫でながら、声音を一変させることなく、にっこりと微笑んだ。


挿絵(By みてみん)


「だからこそ、先ほど『お菓子がなくなったらどうするの?』と聞いたのよ。帰ることもできず、上空からのデリバリーも間に合わない極限状態に陥ったなら……そこにあるものを『現地調達』すればいいのよ」


「……え?」ゆりのペンが、ピタリと止まった。


「えーっ! それって酷くない、紫苑姉!? お菓子がなくなったら、その辺に落ちてる草とか、アノマリーの肉を無理やり食べろってこと!? 僕の回答よりよっぽどおかしいし、お腹壊しちゃうよ!」ますます声を大にしてぶー垂れる唯。


しかし、ゆりの背中には、先ほど以上の強烈な戦慄が走っていた。(現地調達……。アノマリーの、肉……?)唯は食事の話をしている。


だが、紫苑の言う『現地調達』が意味するところは、おそらくもっと悍(おぞ)ましく、そして凶悪な理論だ。アノマリーの結合を崩壊させ、その残骸(黒い粒子)からマテリアルを強制的に剥ぎ取り、自身のナノマシン武装の修復リソースとしてその場で喰らう(チャージする)――。


「敵の肉体そのものを、我が身の糧とする」それは医学の権威であり、この怪物の素体を創り上げた天野紫苑だからこそ、笑顔でさらりと言ってのけられる、最も合理的で最も悪魔的な『無限戦闘のロジック』だった。

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