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2ー8-3 禁忌の素材(マテリアル)

2ー8-3 禁忌の素材(マテリアル)


かつて、クローディアとゆりが試験体の製作において、最も高く、最も厚い壁としてぶつかったのが「実験用の生体(素体)」をどう確保するか、という問題だった。


挿絵(By みてみん)


まさか、どこかの独裁国家や犯罪組織のように、その辺りから生身の人間を誘拐してきて非道な人体実験に供するわけにもいかない。では、動物を使って実験を重ねるか?それも筋が悪かった。


外界から実験用の動物を大量に調達すれば、その流通経路のどこから機密が漏洩するか分かったものではない。ましてや、どこぞの過激な動物愛護団体に痛くもない腹を探られ、研究所の周囲を嗅ぎ回られるような事態だけは、何としても避ける必要があった。


白川ゆり。ナノマシン工学の最高権威として知られ、その分野において彼女の右に出る者はいないとまで謳われた天才。


挿絵(By みてみん)


最近では「あの白川ゆりが天野財閥に囲い込まれたらしい」と、業界の裏で真ことしやかな噂が飛び交うほどの大物である。


しかし、そんな稀代の天才といえど、何もないゼロの空間から有機的な生命を創り出すことは不可能だった。あらゆる代替手段を検討し、完全に行き詰まった末――ゆりは静かに狂気に満ちた決断を下す。


「……私の肉体にナノマシンを注入して、私が実験台になるわ」その言葉には、さすがのクローディアも血相を変えて激しく詰め寄り、全力で彼女を制止した。ここで白川ゆりという唯一無二のパートナーを失うことなど、クローディアにとって断じて看過できるわけがなかった。


挿絵(By みてみん)


「ふざけるな、そんなことで君を死なせるわけにいかない! ――なら、こうしようじゃないか。あるだろう、我々の身体の中にも、最高の『素材』が」不敵に笑みを作ったクローディアは、自身の腹部にそっと人差し指を突き立ててみせた。


挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)


だが、遺伝子や細胞の適切な抽出と培養、安定したクローニングは、ナノマシンの天才であるゆりと、財閥の令嬢であるクローディアの二人だけでは、どう逆立ちしても専門外で進まない。結局、二人は完全に匙(さじ)を投げ、外部から確実な助っ人を呼ぶことにした。それが、先ほど部屋に現れた紫苑と唯の二人だったのである。


挿絵(By みてみん)


このプロジェクトは、一文字たりとも外部に漏らすことが許されない機密事項の塊だ。情報の漏洩は天野財閥の破滅、ひいては彼女たちの死を意味する。


「そんな都合のいい条件に合致する超一級の人材が、一体この世界のどこから湧いて出てくるっていうのよ!」と、ゆりが自暴自棄になって頭を抱えたのも無理はなかった。しかし、救いの神は存在したのだ。まさに灯台下暗し。


挿絵(By みてみん)


天野財閥という巨大な血脈のなかにこそ、求めていた最高峰の医学と遺伝子工学の頭脳(援軍)が、奇跡的に眠っていたのである。

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