2-6 完全修復(パーフェクト・リジェネ)の素体
2-6 完全修復の素体
何十回、何百回と、狂気的な破壊実験は飽くなき執念で繰り返された。ガラスの向こうの実験場では、少女の姿をした『試験体』という名のかかしが、あるものは銃撃で撃ち抜かれ、あるものは杭で突き刺され、あるものはハンマーで叩き潰され、あるものは高所から叩きつけられ続けている。
観察室でクローディアとゆりが他愛のない雑談を交わしている間も、その視線の先では、目を背けたくなるような凄惨な光景がただ淡々と垂れ流されていた。
試験体たちに、自発的な意思や感情はない。ただ入力された命令に、どこまでも忠実に行動しているだけの人形だ。もし彼女たちに意思や感情があり、痛みに泣き叫ぶようなことがあれば、それは実験のノイズになってうるさくて仕方がなかっただろう。だが――仮にそんなものがあったとしても、この二人は何一つ気にとめることなく、平然と実験を続行したに違いない。
実験を行い、冷徹にデータを採取し、その数値を基に今までを凌駕する「新しい何か」を創り出す。それこそが彼女たちの仕事であり、存在意義だった。そこに「生きているから可哀想だ」とか、そんな凡俗な倫理観や感傷は、一滴たりとも存在しなかった。そして、その瞬間はついに訪れた。
「――待って。ゆり、一度実験を止めてくれ」モニターを凝視していたクローディアが、唐突に制止の声を掛けた。実験場の中央、硝煙と血煙が晴れたその場所に、奇妙な違和感が横たわっていた。ある一体の個体だけが、装備も肉体も、まるで新品のように美しいまま佇んでいるのだ。
周囲の他の個体を確認すれば、すでに生命活動を停止して物言わぬ肉塊と化したもの、辛うじて生き残りはしたものの今なおガタガタと肉体を修復し続けているもの、今まさに命の灯火が消えかけようとしているものばかりだった。そんな地獄絵図のド真ん中で、その少女だけが、実験前と全く同じ無傷の状態で、静かに次の命令を待つように直立していた。
「おかしいわね……。あの個体だけ傷一つないなんて、何かのエラーかしら?」クローディアの言葉に、ゆりも表情を引き締め、手元の端末から即座に実験ログを呼び出して精査する。
「――いや、間違いないわ。ログを見る限り、その子も他の個体と同じだけの過酷な破壊ダメージを、確実にその身に受けている。……つまり、ダメージが無かったんじゃない。破壊された瞬間に、私たちの目にも留まらないほどの超高速で、元の完璧な状態まで『完全修復』を遂げたのよ」
「なんだって……っ!」それを聞いた瞬間、クローディアの顔に歓喜の光が爆発した。彼女は観察室を飛び出すと、まだ血の臭いが立ち込める実験場へと迷わず駆け込んでいく。
「ほう、これは面白い! 面白いなんてもんじゃない、素晴らしいじゃないか! 一体他の個体と何が違うんだ!? さあ、早く私にその極上のデータを見せてくれ!」興奮冷めやらぬ様子で、クローディアはその少女の手をぐいと引き、観察室へと連れ帰ってくる。
主を失った実験場では、いつも通り大型ロボットアームが作動し、無残に壊れた他の試験体たちを容赦なく掴み上げていた。
それらはベルトコンベアに乗せられ、冷たい分解用プールの中へと、物言わぬ資源として静かに流されていくのだった。




