2-5 不完全死の素体(アンデッド・プロトタイプ)
2-5 不完全死の素体
装備品にナノマシンを付与した実験は、二人の予測すら軽々と超え、さらなる未知のフェイズへと突入した。
武装側のナノマシンが高速修復を可能にした影響だろうか――実験場の地獄絵図の中で、どれほどの致命傷を負っても「生命活動を停止しない個体」がポツポツと現れ始めたのだ。
いくら強靭な合成生命体とはいえ、完全に死亡してしまえば生体内ナノマシンも機能を停止し、修復など行えるはずがない。つまり彼女たちは、肉体的には「即死」しているはずの領域を、ナノマシンの超駆動によって強引に生き長らえ、即死の一歩手前で踏みとどまっているのだ。
ゆりはすぐさま、その驚異的な生存能力を見せた試験体からナノマシンを回収し、生存データを徹底的に採取した。そして、その進化データを基に、基礎となる試験体の設計コードそのものを再構築していく。これ以降、実験のサイクルはさらに複雑化した。
「武器側ナノマシンの更新」と同時に、「致命傷から生き残った試験体側ナノマシンのデータ採取と更新」を並行して行っていく。
その狂気的なフィードバックを何度も繰り返すうちに、実験場では「死なない個体」の割合が明らかに多数派を占めるようになっていった。
死なない、と言っても四肢は千切れ飛び、肉体は著しく破損しているため、実態は辛うじて「虫の息」で血の海に転がっているという凄惨な状態ではあるが、それでも彼女たちの命の灯火は決して消えなかった。
ついに目標とする地平以上のデータが揃い、二人は一度実験の手を止め、ブレイクタイムを設けることにした。お気に入りのソファに深く腰掛け、コーヒーを淹れる。
「いやぁ、ゆり、これは本当に素晴らしいよ! 私もまさか、これほど短期間で生体と武装が相互に劇的な進化を遂げるなんて、夢にも思っていなかった!」クローディアは未だ興奮冷めやらぬ様子で、採れたての極上データを眺めながら声を弾ませる。
「そうね、マリ。私も同感だわ。まさかこんな領域にまで辿り着くなんて。やっぱり、ナノマシンには人間の想像を超える無限の可能性が秘められているのね」ゆりはクローディアの言葉ににこやかに同意してみせた。
――しかし、その麗しい笑顔の裏で、ゆりは全く違うことを考えていた。
(……うん。確かに『武器にもナノマシン入れちゃえば?』って言ったのは私だけど、あれ、ただの思い付きだったのよね。クローディアが思ったように上手くいかなくてめちゃくちゃ凹んでたから、ちょっとした気分転換のつもりで、軽いノリで提案しただけなんだけど。まさか、ここまで洒落にならないレベルで絶大な成果が出ちゃうなんてねぇ……)心の中で、そっと可愛らしく「てへぺろ」と舌を出すゆり。
とはいえ、理由はどうあれ結果は往来。棚から落ちてきた特大の牡丹餅のような未曾有の成果を前に、天才ふたりはホクホクとした満ち足りた笑顔で、温かいコーヒーを啜るのだった。




