2-4 自己修復武装と『鷺(サギ)』の創世記
2-4 自己修復武装と『鷺』の創世記
装備品そのものにナノマシンを付与するという試みは、直後、二人の目の前で恐るべき現象となって結実した。――破損した防壁や刀身が、自律的に元の形状へと蠢き、修復を始めたのだ。
現時点での自己修復速度は、肉眼で辛うじて視認できるほどの微々たる変化に過ぎない。しかし、機能として「ゼロ」であることと「イチ」が存在することの間には、宇宙ほどの絶望的な開きがある。
物質の限界を超えた歴史的瞬間に、クローディアは狂喜乱舞した。
「これは素晴らしい、本当に凄まじい大発見だよ! ゆり、君は天才だ! まさかこれほど劇的な相互作用が起きるなんて、私の予測すら遥かに超えている!」
まるで新しい玩具を与えられた子供のようにはしゃぎ回るクローディア。その無邪気な姿を見つめながら、ゆりはあえて大袈裟に、深々と頭を下げてみせた。
「それはお褒めに預かり光栄極まりなき底にございます、お嬢様」
「ふふっ、なんだいその仰々しい態度は」
「だって、事実でしょう?」クローディアは泣く子も黙る世界的な大財閥「天野財閥」の令嬢である。ゆりの冗談は何一つ間違っていなかった。互いの顔を見合わせ、二人は同時に堪えきれず楽しげに吹き出した。
しかし、ひとたび解析モニターに向き合えば、その表情は一瞬で冷徹な科学者のそれへと戻る。何度データを検証しても、なぜ無機物の武装に付与したナノマシンが「自己修復」という生体特有の挙動を始めたのか、当初は理論的な説明がつかなかった。
試験体という存在は、いわばナノマシンと有機体が融合した複合生命体だ。その体内ではすでに、自己修復・自己増殖・自己進化という「生命の三原則」とも呼ぶべき高度なナノプロセスが自律的に実行されている。熟考の末、二人は一つの仮説に辿り着いた。
試験体がナノマシン武装を手に接触した瞬間、外部の武装側ナノマシンと、試験体内部の生体内ナノマシンの間で、未知の「同調」が発生したのではないか、と。
生体側の高位な命令を受け取った武装側のナノマシンが一斉にシステムデータを更新し、装備品を構成するチタンやカーボンの結合分子を強引に組み替えることで、自己修復に至った――それが最も有力な推測だった。ただし、武装側は有機体(生肉)ではないため、細胞のように「自己増殖」して質量を増やすことはできない。
そのため、修復は微々たる規模に留まっていた。実際、自己修復を終えた防具の構造データを確認すると、修復箇所の分子密度は明らかに低下しており、武装内のナノマシン自体が摩耗・消費されていることが判明した。
(――要するに、あらかじめナノマシンへ『修復用の資源』の所在を指定して供給してやれば、物質の限界を超えた無限の再生が可能になるということだ)この発見こそが、後に彼女たちがロールアウトすることになる、有限ながらも驚異的な自己再生機能を備えた『鷺シリーズ』の基本設計へとダイレクトに繋がっていく。
これ以降の実験において、二人はアプローチを一段階引き上げた。破壊試験で破損した装備品の破損データをその都度回収し、ナノマシンのコードを逐一アップデート。
更新されたナノマシン群体を用いて、再びその場で武器を再構成し、試験体に装備させて実験場へ送り出す。この狂気的なアップデートサイクルを幾度も繰り返すうちに、武装側のナノマシンは最適化を重ね、内部の運用効率を爆発的に向上させていった。
実験の終盤。再び凄惨な打撃を浴びた少女の盾は、もはや微々たる変化などではなく、まるで生き物のような速度で傷口を塞ぐ「高速再生」すらやってのけたのである。




