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同じ頃、デパートの地下に位置する防災センター内では、壁一面に並ぶ監視モニターを凝視していた警備員たちが、異常な騒然としが熱気に包まれていた。映し出されているのは、正体不明の「黒い物体」から、顔を引きつらせて狂ったように逃げ惑う人々の姿。


「な、何が起こっているんだ……!? この画面に映っている黒い塊は一体何だ!」メインモニターを指差し、血相を変えて叫んだのは警備員の村上亮(むらかみ りょう)だった。彼は隣のコンソールに座る秋田勉(あきた つとむ)を怒鳴りつけるように問い詰める。


「おい秋田! 今日は何か、こういうゲリラ的なイベントの予定でも入っていたのか!?」尋ねられた秋田は、青ざめた顔で力なく首を振る。そのような不謹慎な催しの報告は、当然ながら一切受けていなかった。


だが、モニターの向こうで繰り広げられている客たちの生々しい絶望を見る限り、これが悪質な悪戯や演出などではなく、すでに人類の理解を超えた最悪の不測の事態であることは火を見るより明らかだった。


「警報だ! 火災でも何でもいい、とにかく館内全域に非常警報を鳴らせ!」「ダメです……! どの系統のスイッチも全く作動しません!」悲壮な声を絞り出す秋田の顔を見て、村上は激しい目眩を覚え、頭を抱えたくなった。なぜかシステムが完全に死んでいる。村上は、画面の中で蠢く不気味な黒い影を凝視した。その動きは、無秩序な獣のそれではない。まるで明確な意志と目的を持っているかのように、効率的に、機械的に階層を移動し、人間を効率よく追い詰めている。


「これは……ただの災害じゃない。明確な意志を持った『侵入』だ。とんでもない何かが、この場所に場所に現れたんだ……!」彼の震える言葉に、室内の空気は墓場のように重く沈み込んだ。「警察だ、110番だ! よし、私が掛ける!」村上は震える手で受話器を掴み取り、ダイヤルを回した。


『はい、警察です。事件ですか? 事故ですか?』すぐに通信指令室に繋がり、事件係へと回線が取り次がれた。しかし、どれほど必死に状況を説明しようとしても、全く要領を得ない。それもそのはずだ。モニター越しの慘劇を見ている村上たち自身が、目の前で起きている「人間が溶けて消える現象」を何一つ理解できていないのだから。


「とにかく化け物がいるんだ! 人がいっぱい死んでいる!」必死に受話器に叫び、説明を続けようとしたその時、プツリ、と冷たいノイズが走り、回線が唐突に切断された。ツーツーと虚しい電子音だけが響く。もはや外部との連絡網は完全に途絶し、この地下の密室で彼らが取れる有効な手段は、何一つ残されていなかった。


一方、2階で起きた地獄絵図を肉眼で目撃した客たちは、雪崩のように非常階段へと殺到し、出口のある1階へと我先にと駆け下りていた。あまりの恐慌状態に、慌てて階段を踏み外して派手に転倒し、コンクリートの床に激しく叩きつけられる者。その倒れた人間の身体を、後続の客たちが文字通り踏み付け、突き飛ばしながら容赦なく通り過ぎていく。


しかし、世間はちょうど昼時の最も混雑する時間帯である。1階のきらびやかなフロアには、昼食を求めて付近のオフィスからやってきた会社員の姿がちらほらと見え、子連れの親子が「今日は何を食べようか?」と手を繋いで歩き、ご婦人たちが楽しそうに談笑しながら連れ立って入店してきていた。そんな、幸福な日常の真っ只中に、階段の上から「鬼気迫る形相」に変貌した大量の群衆が、叫び声を上げながら津波のように押し寄せてきたのだ。デパートの一階通路は、一瞬にして逃げる者と留まる者の衝突によって、凄まじい混乱を極めていった。


「どいて! 早く逃げないと死ぬわよ!」「どけぇっ! 邪魔だ、そこをどけ!」誰もが理性を失った獣のように叫び、正面のガラス扉(出口)に向かって殺到する。何が起きているか分からずに店内に入ろうとする無防備な客たちと激しく衝突し、小競り合いが起き、そこかしこで怪我を負う者が続出し始める。通路を埋め尽くす逃げ惑う客たちと、わけも分からぬままその狂乱を遠巻きに見つめる客たち。パニックがさらなるパニックを呼び、事態はもはや誰にも収拾がつかない暴動状態と化していた。


状況を把握しようと、近くのカウンターにいた女性店員が、必死の顔で走ってきた客の一人の腕を掴んで話しかける。「お客様! 一体何があったのですか!?」「化け物よ……! 化け物が出たのよ、みんな殺されるわ!」狂乱した客はそれだけを金切り声で叫び残すと、店員の腕を振り払って出口へと走り去っていった。「化け物……?」取り残された店員の女性は、あまりの荒唐無稽な言葉に、どう行動すべきか一瞬の思案に暮れる。――だが、彼女が次の思考を巡らせる前に、恐るべき「それ」は、彼女の目の前で容赦なく実行されることとなった。

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