14-16 『狂気の領域、時速360キロの限界』
14-16 『狂気の領域、時速360キロの限界』
「レベル6に上げろ」
「正気ですか?」
上官に睨まれた士官は、続く言葉をぐっと飲み込み、別の言葉を絞り出す。
「わかりました……レベル6に上げるよう伝えます」
オーバルトラックを走っている2人の隊員は、後に「あれは最悪の内容の試験だった」と心からこぼすこととなる。
それほどまでに、その内容は苛烈を極めるものであった。
「おい……上は……俺たちを……殺す気……なんだろうかね」
「知らんよ……明日の……朝日が……拝めると……良いな……」
「同感だね……」
2人は命懸けでレベル6へと切り替える。
もはやそれは、次元を超えた何かだった。
そう表現しても決して過言ではないだろう。
時速にして360キロ。
時速360キロといえば、F1マシンのストレートでの最高速度が、
サーキットの条件によって時速360キロ前後に達する領域である。
そして2人は知る由もなかったが、HIMAT(高機動制御システム)は刻々と変化する状況に随時対応し、最適な動きを装着者に提供していた。
これは、ナベさんに提供した段階のシラサギからはるかに進化している証拠でもあった。
一方、管制室の試験官たちは――。
「はっはっはっ! 素晴らしい、素晴らしいじゃないか。『サギ』とかいうふざけた名前にどうなることかと思ったが、これほどとはな! 今、速度はどれくらい出ているのだ?」
「――現在、時速360キロです!」
「くっくっくっ、良いじゃないか! これは実に良いものだ」
「お言葉ですが、そろそろ中止された方がよろしいのではないでしょうか……?」
「何を言っているんだ。まだ6だ。あと4段階もあるんだろう? 最後まで見通したいじゃないか」
忠言した士官は、もはやこの上司に何を言っても無駄なのだと、深い諦観の境地に達するのであった。
シラサギが叩き出したその驚異的な性能は、まだシステム全体の「60%」を解放したに過ぎなかった。




