13B-37 『邂逅、修羅の原にて』
13B-37 『邂逅、修羅の原にて』
「まぁ、構わないか。遥、車が来たらここまで通してほしい。言葉で説明するより、実物を見てもらった方が早いだろうしね」
面倒な言い訳はすっかり忘却の彼方に消し去っていたクローディア。
開き直りの早さは天下一品である。
「ただ、遥の姿は色々とややこしい事になるな……。とりあえず、全員サングラスでも掛けておいてくれ」
どこかのアニメやマンガに出てくるSP(要人警護)を思い出したのだろう。
同じ顔の少女が1000人もひしめき合っていれば、いくら何でもパニックになると判断し、事情説明が終わるまではサングラスで誤魔化すことにしたらしい。
一方、研究所へ向かう山中の道路を、一台の車が走行していた。
車種はルクサスLX。
『陸の巡洋艦』とも呼ばれる、今流行りの大型クロカン車だ。
運転席には宗次郎、助手席に総一郎。後部座席には紫苑と唯が乗っている。
ちなみに母親二人、キャサリンと美和は官邸でお留守番である。
車が研究所の私有地へ入る。
当然ながら、研究棟へと続く道には人っ子一人いない。
不気味なほど人の気配が途絶えていた。
だが、かつて建物があったはずの場所に近づくにつれ、地響きのような「衝撃音」が絶え間なく聞こえてきた。
「ねえ、これ……何の音?」
唯が不安げに紫苑に尋ねるが、紫苑も首を横に振るしかない。
「むっ……。やはり何かが起こっているのか? 宗次郎、どうする。引き返すか?」
異常な事態を察知した総一郎が、危険を考慮して提案する。
「いや、もうここまで来たのだ。最後まで行く」
宗次郎は短く返し、車の速度を緩めながら、建物の残骸がある場所へと近づいていった。
――そこには、確かにお目当ての二人がいた。
だが、様子がおかしい。あまりにもおかしい。
他にも無数の人影が見える。
そのような人員がいるとは聞いていない。
一体何者なのか。
二人と行動を共にしている以上、関係者だとは推測できるが……全員が「純白の鎧」のようなものを纏っているのだ。
仮装パーティーか何かの祭りかと思うほどの異様さである。
さらに奇妙なことに、クローディアとゆりまでが、その白い鎧を身に着けていた。
これで混乱しない方がおかしい。
だが、四人の混乱にさらに拍車をかける光景が、その奥で展開されていた。
次元の割れ目である。
倒壊した建物の残骸の上空で、空間の裂け目が開いては閉じ、閉じては開くのを繰り返している。
そして、割れ目が開くたびに、人類の天敵と呼ばれる『アノマリー』が次々と吐き出されていた。
だが、そのアノマリーは――白い鎧を着た人物たちに殴り飛ばされ、蹴り飛ばされ、空中で掴まれては投げ飛ばされ、ハエのように叩き落とされて、一直線に「黒い山」へと勢いよく突っ込んでいく。
その黒い山が何かと思ってよく見れば、おびただしい数のアノマリーがひしめき合い、蠢いている塊だったのだ。
車内からその光景を目の当たりにし、四人は一斉に息を呑んだ。
無理もない。
遭遇すれば死が確定する人類の天敵が、生ゴミのように積み上げられているのだ。
本来であれば、一刻も早くこの場から逃げ出す算段をつけるべき状況である。
奴らに勘づかれれば、その瞬間に人生が終わるのだから。
しかしよく見ると、アノマリーたちは白い鎧の集団に完全に翻弄され、手も足も出ない状態に陥っていた。
「……ここまで来たら、毒を食らわば皿までよ」
常軌を逸した光景を前にしても、天野家の“刃”たる宗次郎は我に返り、意を決してアクセルを踏み込んだ。
そして一台の車が、絶賛無双中のクローディアたちの前へと到着した。




