13B-36 『思い出すべき悪夢』
13B-36 『思い出すべき悪夢』
「遥, 悪いんだけど、そこのアノマリーの四肢を固定しておいてくれるかな。どこまで細かくすれば停止するのか見てみたい」
天野家の深刻な心配をよそに、現場はキャサリンの予想通り――いや、むしろ予想以上に悪化しており、完全なカオスと化していた。
彼女たちの背後では、絶え間なく鈍い衝撃音が鳴り響いている。
逃げ出そうとするアノマリーを遥が蹴り飛ばし、殴り飛ばし、跳躍して逃れようとする個体を空中で捕まえては叩き落とし、元の「アノマリーの山」へと乱暴に投げ戻し続けているのだ。
しかも、頭上の割れ目からは依然として無限にアノマリーが湧き出している。
これを混沌と言わずして、何と表現すれば良いのか。
ゆりもまた、クローディアの傍らでアノマリーの解剖実験を呆れ半分に眺めていた。
以前であればメモ帳を開いて必死に書き込んでいるであろう場面だが、その必要はもう無い。
人間を辞めた彼女たちには、そのようなアナログな記録ツールはもはや不要だ。
データとして脳内に直接記録され、いつでも引き出せるのである。
時折こちらへ襲い掛かってくるアノマリーを、ゆりも平然と『ブレード』を展開して切り刻んでおり、すっかり『シラユキ』を使いこなしているようだった。
「ところで、マリ。この状況をどう締める気かしら。何か手立てはあるの?」
ゆりはそう言いながら、今も怪物を吐き続ける次元の割れ目を見上げる。
「んー、対消滅炉でも残っていれば、実験がてら色々試せただろうに。この忌々しい奴らめ……」
クローディアはアノマリーの分解実験に没頭するあまり、当初の目的(割れ目を閉じること)をすっかり忘れていたのである。いわゆる、目的と手段が入れ替わっているというやつだ。
しかし、ゆりの言葉で思い出して再び怒りが湧き上がったのか、アノマリーを分解する手の動きが目に見えて早くなった。
複数の遥に四肢を固定されたアノマリーを、クローディアが素手で何度か千切って捨てると、限界を迎えたのかその個体はようやく黒い粒子となって消滅した。
「結局、こいつらが何なのかは分からん。地球上の物質ではない事だけは確かだが。四肢を切り落とそうが頭を落とそうが活動を止めないばかりか、触手すら伸ばして狂暴化する。生物なのか兵器なのか、さっぱり見当もつかないね。胴体に内臓らしき中枢器官も無い。縦半分に切り裂いても活動し続け、上下に二分してもそれぞれが独立して活動し続けようとする。実にめんどくさい奴らだ。ただ、今わかったが、身体が一定の割合まで破損すると全体が崩壊するようだな。胴体内部に核は無いが、胴体の体積がある程度残っていれば活動を維持できるようだ。……なんと言うか、Gよりタチが悪い。破損した個体は、あの触手らしきもので有機体を取り込んで再生でも図るのだろう。そこまで実験させてみても良いが、ある程度想像がつくからここは端折ろうか」
クローディアは、これまでの検証結果を口に出して総括した。
「そうね。でも、色々と特性が分かってきたことは良い事じゃないかしら……? まぁ、結局分かったことは『根本的には何も分からない』ということだけね……」
ゆりはやれやれと深いため息をついた。
「マリ、悪い報告です」
二人でアノマリーの生態考察をまとめているところへ、遥が口を挟んだ。遥の深刻そうな様子からして、二人にとってあまり良い知らせでは無いようだ。
「どうした、遥。何があったんだい?」
「一台の車が、こちらに向かってきます」
「なんだ、そんなの遥なら適当に追い返せるだろうに」
クローディアは、遥なら何らかの手立てで侵入者を追い払えるだろうと思っていたが、次の説明で完全に固まることとなる。
「いえ……最初に言った『悪い報告』というのはですね。搭乗しているのが、総一郎、宗次郎、紫苑、唯の四名だからです」
「「あっ……忘れてた……」」
横に居たゆりも、クローディアと全く同じセリフをハモっていた。やはりこの二人、似た者同士であった。




