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2-1 同時解体(シムル=ディスマントル)の素体

2-1 同時解体(シムル=ディスマントル)の素体


――『頭部と右腕が損壊した直後、対象は黒い粒子へと変化し霧散した』手元の端末に表示された戦闘記録の記事を眺めながら、クローディアはぽつりと独り言を呟いた。


「ふむ。手と頭が千切れたら、個体を維持できずに消える、か……」すぐ隣で作業をしていたゆりが、その声に反応して顔を上げる。


「記事を読む限り、脚は千切れなかったみたいね。装甲に穴を開けられただけで」


「ある程度の体積、あるいは特定の部位が残っていないと形態を維持できない……か。アノマリーの体内には何らかの未知のエネルギーが循環しており、それが特定部位の欠損によって絶たれると、結合崩壊を起こす。といったところだろうか」クローディアが顎に手を当てて思案すると、ゆりがそれに言葉を重ねる。


「人間で言うところの、血液や神経網みたいなものかしら?」


「まあ、現時点では推測の域を出ないがね。実物を見ているわけでもないし、データが少なすぎる」クローディアはそう言って苦笑しつつも、画面をスクロールさせた。ゆりもまた、モニターのログを覗き込みながら指摘する。


「でも、この損壊の後は散々な泥仕合になっているわよ。頭部が吹き飛んでもなお、平然と行動を続けているわ。ということは、頭のように見えているパーツは、実は中枢神経ではないのかも」「なるほど、トカゲの尻尾か」


「ええ。外敵に対してそこが弱点だと錯覚させるための、ただのフェイクであり、ミスリードを誘うデコイなのかもしれないわね」


「ふむ、面白い。一体どこまで細かく切り刻めば機能が完全に停止するのか、この目で実験してみたいものだ」クローディアの瞳に、マッドサイエンティスト特有の好奇心の火が灯る。


この時の二人の何気ない会話こそが、後に彼女たちが生み出す『シラユキ』の、そして『天野遥』の圧倒的な戦闘スタイルを形作ることになるとは――この時、彼女たち自身もまだ予想だにしていなかった。


「要するにだ。相手に気づかれることなく、接触される前に一瞬でバラバラに解体してしまえばいいわけだ」


「……それ、本気で言ってる?」呆れたようなゆりの視線に、クローディアは肩をすくめて笑う。


挿絵(By みてみん)


「はは、まさか。だが、狙撃による物理破壊が通じるのだから、狙撃の弾数を物理的に増やせば、あるいは可能だとは思わないかい?」ゆりも、クローディアが冗談半分で言っていることは分かっていた。

これはただの、純粋な事実確認としての思考実験だ。


「それを『普通の人間の軍隊』ができるとは思えないわよ。相手は的(まと)じゃなくて、不規則に動き回る化物なのよ? 何人もの狙撃手が一寸の狂いもなく同じ部位を狙い、千切れるまで超精密連射を叩き込むなんて、それこそ神業の領域だわ」


「まあ、そうだろうねぇ。しかもタチの悪いことに、奴らはどういう原理か、昆虫のように『群体知覚』を行っているフシがある」


「ええ。一体が攻撃された時点で、攻撃を仕掛けた人間の位置を即座に特定して、組織的な反撃に移っているものね。とんでもない情報共有能力よ」


「厄介なのは、その殺意のネットワークが、その場にいない他の個体にもリアルタイムで共有されているってことだ」クローディアは大きくため息をつき、お手上げだとばかりに両手を広げた。


挿絵(By みてみん)


「つまり、そこに五体いるなら、五体とも『同時に』一瞬で消滅させる必要があるわけだ。――なるほどね、どこかの馬鹿な司令官が、後先考えずに面制圧のミサイルを撃ち込みたくなる気持ちも、今なら少しだけ理解できるよ」


挿絵(By みてみん)

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