13B-32 『死の茶番劇』
13B-32 『死の茶番劇』
「消えてしまったな。じゃあ、次はこの方法でいくか」
クローディアは、眼前でアノマリーが塵になろうと何の感慨も抱かない。彼女にとって人類の脅威であるはずの異形も、今はただの哀れな実験動物でしかないのだ。
クローディアは近くにいたアノマリーの顔面を左手で鷲掴みにし、そのまま右手を相手の胴体へと深々と突き入れた。
「――!!!!」
胴体を貫かれたアノマリーは、反撃とばかりに両腕を伸ばし、クローディアの胸部へとすがりつく。それは見ようによっては、アノマリーがクローディアの胸を揉みしだいているような卑猥な構図にも見えた。
「いやん、アノマリー君。私の胸を揉むなんてサイテー……とでも言うと思ったか、愚か者め」
アノマリーにしてみれば、装甲を融解させて生体まで浸食・捕食しようとした本能からの行動だったのだろう。自分が逆に「捕食される」とは微塵も考えていないその一手はしかし、『シラユキ』を相手にした場合、最悪の悪手でしかない。
接触した箇所からHIMATを逆流・撃ち込まれたアノマリーは、瞬時に内部から浸食され、崩壊していく。
クローディアに顔面を掴まれ、胸にすがりついた姿勢のまま、その個体はボロボロと塵に変わっていった。
「胴体に手を突っ込んでみたが、臓器のような感触は一切無かったな。こいつらの身体構造はどうなっているんだ?」
クローディアが首を傾げて考察していると、今度は背後から別のアノマリーが覆い被さるように抱き着いてきた。
「きゃー、アノマリー君。私達はまだそんな関係じゃ……とでも言うと思ったか、愚か者め。学習しない奴らだな」
そう言いながらクローディアは平然とHIMATを流し込み、アノマリーを内側から崩壊させた。かつてデパート事件で無数の人々を食い散らかした、死の抱擁。
『しめしめ、これでこの餌は俺のものだ』とでも考えていたかは定かではない。
しかし現実に起きたのは、先ほどと全く同じ結末だった。
接触した部位からHIMATを撃ち込まれたアノマリーは、あっけなく内部から分解され、空しく霧散していく。
だが、このクローディアの茶番じみた一人芝居を、冷ややかな目で見つめる観客がいた。いや、正確には「いっぱいいた」と言うべきか。ゆりと、遥たちである。
「マリ, あなた……ふふっ、面白いわね。アノマリー君って、いつからそんな恋人同士になったの? ぷっ」
ゆりは、クローディアの三文芝居がよほどツボに入ったのか、必死に笑いをこらえながら肩を震わせている。
「げっ、見ていたのか……。ちょっと恥ずかしいんだけどね」
相棒に見られていたことに気づき、珍しくバツが悪そうに照れるクローディア。
ちなみに無数に控える遥たちは、その一部始終を見て見ぬふりでやり過ごしていた。
実に出来た子たちであった。




