13B-27 『検閲された捕食者』
13B-27 『検閲された捕食者』
自室に戻ったクローディア(マリ)は、唯から送られてきたリンクを開き、そこに映し出された映像を何度も何度も繰り返し再生していた。
しばらく見た後、自らもネットの奥深くを検索し、酷似した動画をダウンロードしては収集を始める。情報の収集と視聴――ただそれだけで一日は瞬く間に過ぎ去っていった。
しかし、集めた動画のどれもが途中で途切れており、必死に逃げ惑う場面そのものが消されているのか、アノマリーが現れた後に撮影者がどうなったのかまでは分からない。
判明したのは、「空間に亀裂が生じ、そこから黒い怪物が数体排出される」という発生プロセスだけだった。
出現時の映像は幾らでも転がっているというのに、実際に人が襲われ、捕食されている場面はどこを探しても存在しない。
(……これは意図的に検閲され、消されていると見るべきだな)
どういった怪物が現れて襲ってくるのか、民衆に警戒を促すために出現シーンだけは残しておく。
だが、捕食シーンはあまりにショッキングな映像となるため、パニックを抑えるべく抹消されているのだ。
なかなか巧みな情報統制だった。
「空間から現れる化け物」という噂だけで民衆の関心は十分に惹きつけられるだけに、政府のメディアコントロールの手腕には感心せざるを得ない。
実際、このアノマリー出現事件が発生して以降、街の構造そのものも大きく変容していた。
突如として現れるアノマリー。
一度遭遇すれば確実に死が訪れるため、以降に建設される建物には
「屋外・屋内に必ず数個の防護シェルターを配置すること」が法律で義務付けられたのだ。
さらに従来からある既存の建築物にもセーフティーゾーンとしてのシェルター設置義務が課せられ、違反したビルの管理会社には厳しい罰則が適用されていた。
しかし――シェルターに逃げ込んだところで、それは気休めの時間稼ぎにしかならない。
奴らは箱の中に逃げ込んだ獲物の存在を感知すると、執拗に外部から攻撃を加え、中の獲物を引きずり出そうとするのだ。
シェルターが破壊される前に、アノマリーを完全に駆逐する必要がある。
そして現在、その無謀とも言える駆逐任務を背負わされているのが、陸上自衛隊歩兵科の面々だっ
た。
結局のところ、最初に遭遇した際に考案された暫定戦術――「無反動砲による一斉射撃」で力押しするしか撃破手段が存在しないのが現状なのだ。
過去には戦車や戦闘ヘリの投入に踏み切った作戦もあったが、その結末は凄惨を極めるものだった。鋼鉄の装甲を誇る戦車すら、奴らにとっては「中に餌が入った缶詰」でしかなかったのだ。
装甲をやすやすと引き剥がされ、中の隊員はことごとく引きずり出されて捕食された。戦車を見かけるや真っ先に群がる様子は、悪夢そのものだったという。
戦闘ヘリも同様だった。
「アノマリーに飛行能力はない」と高を括っていたところ、奴らはビルの壁面を高速でよじ登り、上空のヘリへと圧倒的な脚力で跳躍。中のパイロットを喰らい尽くしたのだ。
人類は奴らにとって「ただの餌」でしかないという、あまりにも痛烈で血生臭いしっぺ返しを食らったのである。




