13B-26 『意外な情報源』
13B-26 『意外な情報源』
「やぁ、紫苑姉。今、少し時間もらえるかな?」
多忙を極める彼女に連絡を入れるのは気が引けるものの、後回しにはできない事態だった。
「ええ、今なら少し余裕があるわ。それでマリ、どうかしたのかしら? 大方、叔父さんにでも怒られた?」
紫苑は電話の向こうでクスリと笑う。マリが総一郎に小言を言われている光景が頭に浮かんだのだ。
「いやいや紫苑姉、それはないよ。なんかいつも私が怒られてるみたいじゃないか」
失礼な言い草に、マリは「今日は違う」とばかりに言い訳を始める。
「紫苑姉も忙しいだろうから本題に入るね。……実はさ、父さんに『対アノマリー兵器』の開発を依頼されたんだよ。でも、漠然としすぎてて何から手をつけて良いか分からなくてね。何か手掛かりになるネタやヒントがないかなと思ってさ。さっき宗次郎叔父さんのところにも行ったんだけど『ない』って言われちゃって。筋違いなのは百も承知なんだけど、叔父さんに『紫苑や唯にも話を聞いてみたらどうだ』って勧められたんだ」
マリは紫苑に電話をかけた一連の経緯を説明した。
「んー、そうね……。何か力になれる答えがあれば教えてあげたいのだけれど、あいにく私もその手の情報やデータは持ち合わせていないわね」
紫苑も役に立ちたかったものの、手持ちの情報がないことを申し訳なさそうに伝えてくる。
「いや、いいんだよ紫苑姉。叔父さんに言われてダメ元で聞いてみただけだからさ。忙しいのに時間を取らせちゃって、こっちこそごめんね」
「そう。……ということは、マリはこの後、唯にも電話をかけて同じことを聞くのかしら?」
「一応そのつもり。まぁ、ダメ元だけどね」
マリは紫苑にこの後の予定を伝え、通話を終えた。そのまま手慣れた操作で唯の電話番号をタップする。
『はい、唯です! あ、マリ姉! どうしたの?』
画面に「マリ姉」と表示されているのを見た唯は、声を弾ませて電話に出た。
「やぁ、唯。今、時間大丈夫かな?」
「うん、僕は全然大丈夫だよ! さっき食べたイチゴタルトがすっごく美味しかったんだぁ。それで、マリ姉の用事ってなぁに?」
しれっとお菓子の感想を挟んでくるあたり、いかにも唯らしい。
「あー……まぁ、分かればで良いんだけどさ。父さんに『対アノマリー兵器』の開発を頼まれたんだけど、何かネタや情報って持ってないかな?」
正直、マリも唯からまともな回答が返ってくるとは思っておらず、半ば形式的に尋ねたに過ぎなかった。
『アノマリー? あの黒いヤツだよね! 今すごく話題になってるよ。人を食べちゃうんだよね? 目が合ったら死ぬとか言われてるみたい。動画もあちこちに出回ってるっぽいんだけど、過激なのはすぐ消されちゃってるみたいで……多分、撮影してる人も食べられちゃったんじゃないかなぁ』
「……っ!? 唯、それ本当か!? だとしたら、下手に調べるより動画を検索した方が早いのか!?」
まさか一番期待していなかった唯から、具体的で生々しい情報が飛び出すとは思っておらず、マリは目を見開いた。
『うん! マリ姉の参考になったかな? あ、後でリンク送っておくね!』
かくして、宗次郎叔父さんに「紫苑や唯にも聞いてみたらどうだ」と言われて試してみたら、まさかの大当たりを引き当てたのだった。
(叔父さんの言うことも、バカにはできないもんだな……)
マリは受話器を置きながら、感心したようにそう呟くのだった。




