13B-21 『叔父の助言』
13B-21 『叔父の助言』
結局、父親の総一郎から厄介な仕事を請け負ってしまったクローディア(マリ)。
そうはいっても、「対アノマリー兵器を開発してほしい」と言われても困ってしまう。
アノマリーという存在自体は知っているものの、実際にこの目で見たことすらないのだ。
存在も生態も分からないものを対策しろと言われたところで、何をどうすれば良いのか見当もつかない。
依頼主である総一郎に尋ねたところで、あの様子では同じような曖昧な答えが返ってくるだけなのは容易に予想できた。
クローディア(マリ)が次に訪れたのは、叔父である天野宗次郎の部屋だった。
天野宗次郎――
天野財閥の重鎮の一人である。天野総一郎が天野財閥の「頂点」に君臨する存在であるならば、天野宗次郎は天野財閥の「刃」となる人物であった。
総一郎が財務総裁として政府・防衛省・行政までも動かす「表と裏の静かな権力」を持ち、交渉や政治的抑え込みによって大局を支配するのに対し、宗次郎は財閥の実働部隊を取り仕切るトップである。警察・消防・県庁・危機管理部門へ直接圧力をかけ、行政の壁すら力で突破して現場を動かす
「動の権力」を振るう人物だった。
兄と違って激情家であり、怒りに任せて動くことも少なくない。
現場を牽引する武人であり、天野家の“拳”であり“刃”でもあった。
そんな宗次郎も、兄である総一郎には絶対に逆らえない。
だが、クローディア(マリ)は「兄の娘」であり、宗次郎にとっては可愛い姪にあたる。
自分の実娘である紫苑や唯と同じように、マリのことも目に入れても痛くないほど可愛がり、甘やかしてしまうのだった。
クローディア(マリ)にとっても、幼少期から紫苑や唯と一緒に育ててくれた宗次郎は、数少ない
「気兼ねなく相談できる大人」の一人であった。
「やぁ、おじさん。今度、父さんからアノマリーに対処する兵器を作れって言われてさ。漠然としすぎてて何をしていいのやらなんだよ。何か良いアイデアないかな?」
父の無茶ぶりに困惑している(しかし当人はそれなりに面白がってもいる)現状を、叔父である宗次郎に打ち明ける。
「おう、マリか。また兄貴から無茶を言われているのか。相変わらず兄貴はお前に対する信頼が妙に高いというか、『マリに言えば何とかしてくれる』と思い込んでいる節があるからな。……そうだな、何か手掛かりになるデータでもあれば渡してやれるんだが、生憎とあの連中のデータは皆無なのが現状でね。政府が泣きついてくるのも分からんではないが……」
宗次郎は政治や力づくの交渉力には長けているが、科学技術そのものは専門外だ。
「ネタ(データ)がないから直接助けてやることはできない」という返答は、至極自然なものだった。
「そうだよね。何もないから困っているんだよね。おじさんも手持ちのネタなしかぁ……これは本格的に困ったな」
もっとも、クローディア(マリ)も本気で叔父から技術的ヒントが得られるとは思っていない。
参考になれば儲けもの、くらいの軽い気持ちで訪ねていたため、落胆するでもなく通過儀礼のように受け流していた。
「すまんな、マリ。こればかりは力になれそうにない。……そういえば、紫苑や唯には聞いてみたのか?」
クローディア(マリ)の様子を見て、兄への愚痴をこぼしに来たのだと察した宗次郎は、自分の娘たちの名を挙げた。
「あー……いや、紫苑姉も忙しそうだし、唯もバタバタしてそうだからさ。内容が内容だけに、聞いたところで答えは出なさそうだし、まだ聞いてないよ」
「まあ、内容が特殊だからな。だが、ダメ元で聞いてみるだけ聞いてみたらどうだ? 減るもんじゃないし、何か思わぬ知恵が出てくるかもしれんぞ」
家族同様に育ってきた仲なのだから、声をかけてみるだけでも損はない――宗次郎はそう提案した。
「それもそうか。ありがとう、おじさん。ちょっと紫苑姉と唯に相談してみるよ」
叔父の言葉に納得がいったのか、クローディア(マリ)の思案がまとまったようだ。
「ああ、また何か困ったことがあればいつでも言って来い。俺にできることなら力を貸してやるからな」
部屋に入ってきた時よりも幾分か表情が明るくなった姪を見送り、宗次郎は少しでも姪の力になれたことに満足げな笑みを浮かべるのだった。




