13B-20 『天才と天災』
13B-20 『天才と天災』
ここは天野家の官邸、天野総一郎の自室。
天野総一郎――天野財閥の総裁にして、政財界の重鎮の一人である。
日本の国民でその名を知らない者はいないと言われるほど、天野の名は人々の生活に深く浸透していた。
噂ではベビーカーから重兵器の開発まで手がけ、黒い噂も絶えないと囁かれているが、その真偽は定かではない。
その重厚な自室に、総一郎と娘のクローディア・マリ・天野がいた。
「マリ、お前に話がある。少し頼まれてくれないか。軍務からの依頼なのだが……アノマリーに対処するための兵器を作ってほしいと頼まれてな。お前の知恵と力を借りたいのだよ」
総一郎は苦笑いを浮かべながら、娘であるクローディア(マリ)へ説明する。
「えー……それってすごく面倒くさいヤツじゃないの? 父さん、また面倒な案件を押しつけられてるよね。って、それを私にやらせるの!? ぐっ……マジか……面倒くさすぎるよ。しかも『対処する兵器』って、あまりにも漠然としすぎてない? 完全な無茶振りだよ」
そう言われたクローディア(マリ)は、まるで苦虫を潰したかのような顔で不満をぶちまけた。
「いやぁ、私もそう反論はしたのだがね。だが政府としても、これ以上アノマリーを放置できる状況ではないのだよ。山中にひなびた研究所があっただろう? あそこを好きに使って構わないから、なんとかやってくれないか」
総一郎はクローディア(マリ)を娘として深く愛していると同時に、その頭脳が本物の『天才』であると確信していた。渋りはするものの、最終的には断らないだろうという読みもあった。
「……仕方ないね。父さんの頼みだし、普段から好きにやらせてもらっているからさ。わかったよ、私でよければ何とか考えてみる」
渋々ではあったが、日頃の自由な研究環境への恩義もあり、引き受けることにしたクローディア(マリ)。
しかしその実、頼まれた本人も「その研究はそれはそれで面白そうだ」と脳内で思案し始めているあたり、筋金入りの研究中毒であった。
「スタッフが必要ならこちらで用意するが、どうする?」
金と権力を握る男の言葉だけに、文字通りどんな人材でも自由に手配できるのだろう。
「あー……一旦考えてから答えを出すよ。どうせ、公にできない極秘内容なんでしょ?」
父にそう返したクローディア(マリ)だったが、そもそも見ず知らずの人間に心を許し、打ち解けて協力できるような性格ではない。もともと研究は一人で黙々と行い、確かな結果を出してきたのだ。
ゆえに『天才』と呼ばれてきた彼女だが、その研究の過程で毎回のように周囲を巻き込み、大騒ぎを起こす「はた迷惑な存在」でもあった。
「まあ、そうなるか。使う人材も慎重に選ぶ必要があるからな」
総一郎は幼少期から彼女を見てきた父親である。そして、彼女が巻き起こす数々の「迷惑な事件」にこれまで何度も振り回され、巻き込まれてきた当事者でもあった。
彼女は天才だが、同時に『天災』をも生み出す存在――それがクローディア(マリ)だった。
内容が内容だけに、部外者に研究データや技術を持ち出されては取り返しのつかない事態になりかねない。人材の選定は極めて慎重に行う必要があった。
いずれにせよ、彼女に仕事を委託した以上、しっかりとフォローしておかなければ、またとんでもない「天災」を巻き起こすだろうということは、父として容易に想像がつくのだった。




