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13B-17 『永遠の刻』

13B-17 『永遠の刻』



結局その日は、事故の事後処理と警察の事情聴取に追われて終わり、あっという間に翌朝を迎えた。

二人は世間に対する偽装工作として、一度天野研究所の敷地から立ち去ったふりを装い、その実、密かにこの地下施設へと舞い戻っていたのである。


「ったく……。めんどくさいったらありゃしない。やれやれだね」


やや寝不足で疲れ気味のクローディア(マリ)が、ガシガシと無造作に頭を掻きながらぼやく。


「それは仕方ないわよ。あれだけの大爆発だったんだもの。普通なら死んでいてもおかしくない事故現場から、無傷でひょっこり現れた私達は、警察から見れば相当あやしいはずだわ」


マリのぼやきに対し、ゆりは苦笑交じりに正論を返す。


「いやぁ、しかしこの研究所が別次元の私達の拠点だったとはね。向こうの私は、なんと快適な生活をしていたのだ。うらやましすぎだろう」


クローディア(マリ)が「別次元の自分に嫉妬する」という、よくわからない冗談を口にする。

それもそのはず、彼女はちゃっかり『元の世界のクローディア(マリ)が使用していた自室』で一晩を過ごしたのだ。


自分自身が最も快適に過ごせるようカスタマイズし尽くした部屋なのだから、居心地が最高なのは当然であった。


「本当ね。向こうの私も、こんなに整った生活をしていたのね」


ゆりもまた、『元の世界のゆりが使用していた部屋』を利用していた。こちらも自身のこだわりに合わせて最適化された空間であり、その快適さにすっかり満足している様子だった。


リビングでそんな他愛のない軽口を叩き合う二人を眺めながら、遥は手際よく朝食の準備を進めていた。


「マリ、ゆり。朝ごはんの用意が出来ました」

遥が二人分の温かい食事をテーブルに並べ、静かに声をかける。


「遥、万能すぎるだろう! いやぁ、君が来てくれて本当に助かるよ」


クローディア(マリ)もゆりも、決して料理が出来ないわけではない。

しかし、研究に没頭するあまり「食べる時間がもったいない」「めんどくさい」という理由で、1本100キロカロリーのお手軽な栄養バーをかじったり、サプリメントや携帯食料で済ませたりすることが大半であった。

そう考えると、温かく栄養満点な手料理が自動で出てくる今の状況は、二人にとってまさに天国と言えた。


「本当ね。私もマリも全く料理しないし。……『メシスタント遥』、優秀すぎるわね」


ゆりも深く頷きながらマリに同意する。メシスタント、という絶妙なネーミングに遥はただ穏やかに微笑んでいた。

やがて食事が終わり、二人の空いた食器を綺麗に片づけ終えた遥は、改めて二人へと向き直り、静かなトーンで口を開いた。


「マリ、ゆり。お話があります。……お二人には以前も申し上げましたが、緊急処置としてナノマシン『HIMAT』を投与しています」


遥の真剣な眼差しに、二人の表情も自然と引き締まる。


「HIMATは現在、マリとゆりの身体の隅々まで浸食し、完全に融合し、独自の進化を遂げています。このため、お二人は今後、四肢が吹き飛ぼうが頭部を喪失しようが、即座に細胞が再生され続けることになります。……また、生物学的な『人間の寿命』も最早存在しないと思われます」


淡々と告げられるのは、もはや彼女たちが「人間」という生物の枠組みから外れてしまったという決定的な事実だった。


「お二人が望むままの姿を、HIMATは生体情報から汲み取り、常に最適な状態へと実行・維持し続けるでしょう。それが人間として幸せなことなのか、それとも不幸なことなのか……私には分かりかねます。もちろん、私自身もその状態にあるのは言うまでもありませんが」


遥はそこで言葉を区切り、二人の目を見据えた。


「そして最も重要なことですが――お二人の今の身体がたとえ完全に消滅したとしても、すでにHIMATのネットワーク上に『お二人のすべての情報(記憶・人格・遺伝子)』が記録され、バックアップされています。材料さえあれば、いつでも寸分違わず元の状態へと再生することが可能なのです」


それは、かつて『サイバーナイツ』と呼ばれる往年のSFゲーム小説で描かれた、情報生命体としての

「クローン」の概念そのものであった。


魂すらもデータ化され、永遠の時を生きる不死の存在。

二人は静まり返った地下室で、自分たちが至ってしまった“新たな次元”の重みを静かに噛み締めるのだった。


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