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1-2 アノマリー崩壊理論

1-2 アノマリー崩壊理論


すべての悪夢の始まりは、19XX年7月。とある大都市のデパートで発生した、人類とアノマリーの「初遭遇事件」だった。突如として館内に現れたわずか五体のアノマリーによって、居合わせた人々は文字通りドロドロに融解され、次々と捕食された。


そのデパート内だけでも死者数は約六千人。さらに惨劇はそこだけに留まらず、周囲の数万人規模の住民がパニック状態で避難を余儀なくされ、最終的な行方不明者数は約二万人に達したと公式に報告されている。(――いや。実際には、この数倍の人間が肉片一つ残さず喰い尽くされたのだろうね)クローディアは手元の極秘資料をスクロールしながら、冷ややかにそう確信していた。


しかし、凄惨極まる記録写真を片手に、クローディアの胸に湧き上がるのは恐怖ではなく、純粋な科学的好奇心だった。


もし、その当時の惨劇の現場が今もそのまま残っているのなら、今すぐにでも直接そこへ行って、自分の目で奴らの捕食活動を観察してみたい。そんな常軌を逸した発想を大真面目に抱くあたりが、クローディアという人間がマッドサイエンティストと呼ばれる所以なのだろう。


結局、このデパートの事件を皮切りに、世界各地で同様の未曾有の惨劇が頻発するようになっていった。人類の武器は、奴らの前ではあまりにも無力だった。普通の世界なら、暴漢が相手でも銃で撃てば血を流して死んでくれる。


だが、アノマリーに向けて銃の引き金を引こうものなら、即座に位置を特定され、初戦で全滅したあの哀れな警官隊の二の舞を演じるだけだ。


ならばと銃を捨て、ナイフなどの近接戦闘で物理的にどうにか抗おうとしても、奴らの間合いに一歩でも踏み込み、その身体に触れられた時点で「融解・捕食」されて確実な死を迎える。つまり、戦いを挑むこと自体が完全な自殺行為なのだ。


ゲームのキャラクターのように、敵に一撃を叩き込んでからバックステップで軽快に回避するなんて神業、生身の普通の人間にできるわけがない。


それどころか、人間が脱兎のごとく全速力で走って逃げたところで、アノマリーの圧倒的な身体能力には到底及ばず、背後から容易く追いつかれて貪り喰われるのがオチだった。


人間側からすれば、奴らに見つかった時点で残された唯一の選択肢は、「自らの生を諦める」ことだけだったのである。そんな絶望的なアノマリーだが、世界各国の観測レポートを精査すると、唯一共通する不思議な生態が浮かび上がっていた。奴らは、出現してから正確に「二十四時間」が経過すると、何もしなくても自律的に崩壊し、霧散して消滅するのだ。


これは人類にとって、残された数少ない朗報であり、唯一の救いと言えた。また、決して完全無欠の無敵というわけでもないらしい。圧倒的な火力を用いて、細胞の一片、塵一つ残さないレベルで完全に消滅させれば「死ぬ」――いや、その表現が生物学的に適切かどうかは不明だが、とにかく活動を停止させることは可能のようだった。


実際、どこかの国の上層部が、市街地ごと奴らを消し飛ばすために弾道ミサイルを叩き込んだらしい。後先を考えない、もう無茶苦茶な作戦だ。だが、その狂気の飽和火力の成果もあってか、そのエリアに出現していたアノマリーたちは確かに完全消滅したと記録されている。


そして――奴らが出現する際の状況も、世界中で不気味なほど一致していた。前兆として、大地を揺らす奇妙な微震が走る。直後、鼓膜を劈(つんざ)くような「パリン」という、まるで巨大なガラスが硬い床に激突して割れたかのような異音が響き渡る。


空間そのものに漆黒の「裂け目」が走り、その次元の傷口から、あの 化物たちが這い出てくるのだ――報告書には、そう克明に記されていた。

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