13B-14 『再起の地下施設』
13B-14 『再起の地下施設』
「マリ、先程の質問にお答えしますね。ここは何処かと尋ねられましたよね。……ここは、天野研究所です」
遥はふと思い出したような仕草を見せ、クローディア(マリ)の疑問に淡々と答えた。
「な、なんだってーーっ!?」
普段はゆりから「語彙力が足りない」と呆れられているクローディアだったが、今度ばかりは冗談抜きで、心の底から仰天の声を上げていた。
「マリ、ちょっとふざけすぎよ。時と場所を選びなさい。遥が真面目に説明してくれているのに」
ゆりは、マリがまたいつもの悪い癖でおどけているのだと思い込み、ピシャリと諫める。
「いやいや、ゆりさんや! 今のは本気で驚いていたんだよ! だって、研究所は跡形もなく吹っ飛んだはずじゃないか!」
マリはゆりに誤解され、慌てて必死に言い訳を重ねた。
「ここは、私の居た世界における『天野研究所の地下施設』を完璧に再現した空間です。当然、マリとゆりはお二人とも、今日からここを自由にご利用いただけます。また、地上の施設はあえて復元しておりません。それには二つの理由があります」
遥は微動だにせず、しかし極めて理路整然と説明を続けた。
「一つ。この世界における地上の施設は、私の居た世界の施設とは形状や規模が全く異なっていたためです。二つ。研究所が大規模な爆発を起こしたという事実は、恐らくすでに何処かへ通報されているはずです。施設の再生自体は技術的に可能ですが、爆発したはずの建物が一瞬で元通りになっていては不自然な矛盾が生じ、かえって危険だと判断しました」
さらに遥は、よどみなく言葉を継ぐ。
「マリ、ゆり。お二人は今後、世間的には行方不明者として扱われるか、あるいは生存が発覚した際に『あの凄まじい爆発から、どうやって生き延びたのか』と理由を問われるはずです。その際、この地下施設に間一髪で逃げ込み、難を逃れたと説明していただければ、客観的な事実との矛盾は生?ないかと思われます」
あまりにも淀みなく、かつ完璧に先回りされた対策を提示する遥を前に、二人はただポカンと口を開けたまま固まっていた。
しかし、時間経過とともに遥の言っていることのスケールと、緻密すぎる論理的思考が脳内で処理されていく。
やがて、二人とも驚きを通り越し、何とも言えない圧倒されたような表情を浮かべた。
「……くそっ、あの忌々しい奴らめ。よりによって炉の中心に直接出てくるなんてな。しかし、これでは事前に対策の立てようもない。……にしても、炉のデータが吹っ飛んでしまったのは痛いな。設計の基礎自体は頭の中にあるから再構築は出来るが、これまでの試験データは……サーバーごと綺麗に消え去っただろうね。バックアップは無事だったかなぁ……」
ようやく現実へと意識を戻したクローディアは、失われた研究の結晶に思い至り、ギリッと歯噛みして強烈な悔しさを露わにした。
「もう、マリったら。……私たちは今、遥に助けられてこうして生き延びているのよ。まずはその奇跡を心から喜ぶべきだわ。試験データなら、また一から積み直せば済むことでしょう?」
ゆりは、頭を抱えて悔しがるマリを優しく、しかし呆れたように励ますと、改めて視線を遥へと向けた。様々な感情を収め、彼女は静かに告げる。
「それより、遥。……何度も言うけれど、私たちを助けてくれて本当にありがとう。私たちが今、こうしてここにいられるのは――間違いなく、あなたのおかげよ」
ゆりの深く、そして温かい感謝の言葉が、静寂に包まれた地下室へと優しく響き渡ったのだった。




