13B-13 『顕現と復元』
13B-13 『顕現と復元』
遥はまず、クローディア(マリ)とゆりのために真新しいベッドを生成した。
そこに清潔な布団を敷き、二人を静かに寝かせる。
ついでに爆発でボロボロになった服をナノマシンで分解し、二人の身体の汚れを綺麗に洗浄したのち、新しい寝間着を着せ掛けた。
二人の救命と保護を終えた後、遥が次にとった行動は――「行き過ぎた科学は、もはや魔法と変わらない」という言葉を、そのまま体現するものだった。
遥は、何もない空間へ向けて右手をすっと前に突き出す。
すると、その右手の先からナノマシンが溢れ出し、もう一人の「遥」が形作られていった。
遥はついに、己自身を直接生成してみせたのだ。
もはや培養液も調整槽も、生体から生成する煩雑な工程すらも必要ない。
それは単なる生体データのコピーにとどまらない。
今までクローディア(マリ)たちと共に過ごしてきたかけがえのない時間、数々の研究データと生み出された産物――その膨大な歴史のすべてを、遥の『HIMAT』は完璧に記録し、記憶しているのだ。
敵の殲滅、超規模の拠点構築、そして神の領域に迫る生体医療技術。
極論すれば、今ここにいる遥が一人いるだけで、世界征服から文明の発展まで容易に行えてしまうほどのオーバースペックであった。
「やるべき事は分かりますね? ――ええ、そうですね」
それが己自身への独り言なのか、それとも新たに顕現した「もう一人の遥」に向けた言葉なのか、それは誰にも分からない。
だが、そこからの作業は劇的な速さだった。
1人から2人、2人から4人、4人から8人……。
倍々ゲームでネズミ算式に増殖していく遥たち。
その数は、元の世界にいた256人をあっさりと超え、最終的に1024人にまで達していた。
当然、畳六畳ほどの地下室にそれだけの人数が収まるはずもない。爆発的に増えた遥たちは、一斉に次の仕事に取り掛かった。
六畳の部屋の壁にドアができ、外に廊下が繋がり、次々と新しい空間が拡張されていく。
彼女たちは、元の世界にあった天野研究所の「あの広大な地下施設」を、この別次元の地中深くに丸ごと再現し始めたのである。
程なくして、天野研究所の巨大地下施設は完璧に再現された。
いつもクローディア(マリ)たちが研究に没頭していた研究室。
開発した武器や機動兵器の稼働実験を行う、広大な複数の試験場。
遥たちが寝泊まりする、居住区としての数々の倉庫部屋。
クローディア(マリ)やゆりが考案した産物を物理的に生み出すプリンター室。
さらには、かつて256人の遥たちがフライトテストと称して飛行レースに興じた「地下放射光施設」や、その巨大な搬入道路までもが、寸分違わず再現されていた。
しかし、遥たちは「地上の施設」にだけは、あえて一切手を触れずに放置した。
天野研究所が大規模な爆発を起こしたという「事実」まで消し去ることはできないからだ。
たとえその瞬間に誰も見ていなかったとしても、遠からず何らかの通報は入り、調査の手が及ぶはずである。
それを何食わぬ顔で元の状態に修復してしまうのは、かえって不自然であり危険だと判断したのだ。
地上にカモフラージュの廃墟を残し、完璧な地下研究施設を築き上げた1024人の遥たちは、各々がお気に入りとしている「倉庫の我が家」へと三々五々に帰っていき、ミッションを終えた充実感とともに思い思いにくつろぐのであった。




