13B-11 『異世界の残骸』
13B-11 『異世界の残骸』
「……ここは間違いなく日本ですね。そして、突入する前の座標と完全に一致しています」
次元の割れ目から放り出された遥は、周囲の景色と内蔵された測位データを入念に突き合わせながら、元の世界にいるはずのマリとゆりへ通信を試みた。
自身の分体(他の遥たち)にも、当然のようにネットワーク越しへアクセスを試みる。
だが、返ってくるのは冷徹なまでの無音だけだった。ネットワークは完全に途絶していた。
「駄目ですね。全く応答がありません。……こうなると、直接確かめに行くしかないようですね」
そう独りごちると、遥は再び『D3』を空間転移で顕現させて跨がり、天野研究所を目指してアクセルを一気に全開にした。
しかし、急行したかつての天野研究所の座標に到着した遥が目にしたものは――無残に爆発四散し、もはや原型すら留めていない瓦礫の山と化した建物の残骸であった。
「こ、これは……一体、何が起こったのでしょう……」
驚愕にわずかに瞳を揺らしながらも、遥は即座にD3を収納し、戦闘形態である『シラユキ』の純白な装甲へと身を包むと、素早く周囲の状況確認と索敵を開始した。
すると、瓦礫の奥深くから、微弱ではあるが建物内に閉じ込められた「二人」の生体反応を感知する。
周辺に他の反応はない。ここで何らかの致命的な事故が発生したのは確実だった。
遥は素早く瓦礫を退け、その下に埋もれていた二人の姿を発見する。
だが、マリもゆりもすでに絶望的な致命傷を負っており、かすかな呼吸を繰り返すだけの虫の息だった。
二人の惨状を確認した瞬間、遥の脳裏に一切の迷いやノイズは走らなかった。
迷うことなく二人の身体に触れ、その血管内へとナノマシン『HIMAT』を直接投与する。
これを施すということは、強制的に細胞の構造を書き換え、二人に「人間を辞めさせる」という不可逆の変質をもたらすことを意味する。
しかし、二人を失うわけにはいかない遥にとって、確実な救命手段を手にしている自分が「人間性」や「倫理」の壁で躊躇するなどという選択肢は、最初から存在しなかった。
HIMATを投与された二人の肉体は、瞬時に自己修復、自己増幅、そして自己進化のプロセスを開始する。
死の淵に立たされていた二人の生体データはHIMATによって急速に再構築され、まもなく意識を取り戻すだろう。
――当面の危機は去った。
だが、崩壊した足場から立ち上がり、周囲の惨状を改めて見回した遥は、胸の内に拭えない強烈な違和感を抱かずにはいられなかった。
「……おかしいですね。あの大規模な地下施設が、どこにも見当たりません。それに、この世界には私の分体も一切存在していないようです。そもそも、本来なら私が側にいれば、二人がこんな致命的な状況に陥るはずがありません」
自らの記憶、目の前に広がる悲惨な現実、そして完全に途絶したネットワーク。
そのすべての状況証拠から導き出される、あまりにもロジカルな結論。
「この状況から推測される事態は……ここは私がいた世界と極めて酷似してはいるものの、『全く違う世界(別次元)』ということでしょうか」
かくして遥は――今やライトノベルやネット小説の定番とも言える『異世界転移』というやつを、まさしくその身をもって体験することになったのである。




