13B-07 『少女の訪れ』
13B-07 『少女の訪れ』
扉を開けて入ってきたのは、漆黒のカーボンファイバースーツを身に纏い、腰まで届く艶やかな黒髪を揺らす一人の少女だった。
「あ、マリ。お起きたのですね。ご気分はいかがですか?」
少女はそう言って、にこりと可愛らしく微笑みながら室内へと歩み寄ってくる。
その手にはお盆が乗せられており、上には水の入ったピッチャーと二つのコップが並んでいた。
目覚めたクローディア(マリ)とゆりに飲ませるために運んできてくれたのだろう。
「あー……気分は悪くないかな。いや、むしろ良い方かもしれないね。……ところで、私の名前を知っている君は、一体誰かな?」
クローディア(マリ)の問いかけに、黒髪の少女は首を少し傾げ、思案するように視線を泳がせた。
「はい、マリ。私は遥です。そうですね……『この世界では』初めまして、と言うべきでしょうか」
遥はそう告げると、殺風景な部屋に唯一置かれていたテーブルの上にお盆を置いた。
そしてコップへトクトクと水を注ぐと、クローディア(マリ)へと手渡す。
「マリ、どうぞ」
「ありがとう。丁度喉がカラカラに乾いていたから助かったよ」
クローディア(マリ)は受け取ったコップの水を、一気に喉へと流し込んだ。
「くぅ~……生き返る!」
そう吐き捨て、空になったコップを握りしめる。
「もう一杯、いかがですか?」
ピッチャーを片手に、遥が優しく尋ねる。
「あー、ありがとう。頂くよ」
二杯目の水を飲み干し、ようやく人心地がついたところで、マリの頭の中にいくつもの疑問が浮かんできた。
(遥……知らないな。いや、記憶がない。そもそも分からない……。そして彼女は今、『この世界では』と言った。この世界では……?)
クローディア(マリ)は、与えられた僅かな情報の中に強烈な違和感を察知していた。
「待ってくれ。遥君と言ったな。そして『この世界では』と言ったね。……それは一体どういう意味かな? ああ、いや……それよりも先に言うべきことがあったね。我々を助けてくれたのは君なんだろう。ありがとう」
「はい、マリ。私がマリとゆりを助けました」
クローディア(マリ)の感謝の言葉に、遥は心底嬉しそうに微笑んだ。
「やはりそうか。……しかし、私はあの爆発で確実に死んでいたと思うのだが。いまこうして生きているということは、死んでいなかったのか? いや、よく分からないな……」
「はい、マリ。あの時のマリとゆりは、本当にかなり危険な状態でした。……あ、申し訳ありません、マリ。非常事態だったため、私は『最終手段』を用いました」
遥はそう言って、どこか申し訳なさそうに眉をひそめて小さく頭を下げるのだった。
その時――二人のやり取りが耳に届き、眠りから覚めたのだろう。
隣のベッドでゆりがパチリと目を開けた。
「あら……。ここは……知らない天井だわ」
クローディア(マリ)に続き、ゆりも見事な手際でテンプレを回収するのだった。




