12-21 数トンのバギーを肩で担ぐテストパイロット
12-21 数トンのバギーを肩で担ぐテストパイロット
天然の山岳林道をそのまま利用した特設オフロードコースは、全長約3キロ。
本来であれば、この凸凹の悪路コースを数周しながら、ケルベロスの各部フレームの挙動やサスペンションの耐久性をじっくり確認する――という至って真面目で地味なテスト走行……となるはずであった。
……「であった」のだが、コース上の様子はもはや『試験走行』と呼ぶにはあまりにもかけ離れた、死線ギリギリの熾烈極まる大デッドヒートが繰り広げられていたのである。
過酷なヘアピンカーブでいかに強引にインコースを死守し、先頭を奪い取るか。
はたまた、アウトコースからホバースラスターを限界まで叩き込み、コース脇の垂直な岩壁面をダイナミックに走破しながら上空から他機を華麗に抜き去る者まで現れる始末で、一瞬たりとも油断できない極限のデスレースと化していたのだった。
しかし、ここまで極限まで攻めた走りとなれば、当然コースアウトして激しい土煙とともに崖下へと豪快に転落していく者も出てくる。
その瞬間、管制室のクローディア(マリ)とゆりは思わず椅子から勢いよく立ち上がり、固唾をのんでモニターを見守ったのだが――
崖下へと消えた個体は、落下途中に即座にケルベロスを『戦闘形態(人型ロボ)』へと完全変形! 巨躯のパワーでガシガシと岩肌を力任せに駆け登り、何事もなかったかのようにコースへと超速復帰してみせるのだった。
さらに別の悪路ポイントで派手にコースアウトした個体に至っては、もはや戦闘形態に変形させることすら面倒になったのだろう。
搭乗していた遥が強化スーツ「シラユキ」姿へと素早く換装して車体から飛び降りると、数トンはある巨大なケルベロスをそのまま肩で軽々と担ぎ上げ、コースアウトした地点まで力ずくでドカドカと戻ってくるという、とんでもない規格外の猛者まで現れる始末であった。
どうやらコースアウトした場合は「落下した元の場所まで自力で持ち上げて戻り、そこから再開する」という、遥たちの間での厳格なローカルルールが存在しているらしい。
「わはははっ! シラユキになって巨体ごと担いで戻ってくるなんて、もはや何でもありだねぇ! 遥たちを見ていると、一体どちらが『乗り物』なのか分からなくなってくるよ!」
マリはモニターに映る遥たちの常識破りな暴走劇を見て、お腹を抱えて椅子の上で大喜びしている。
「毎度毎度、相変わらず心臓が止まりそうになる場面があるのに、私の心配をよそに全部力任せのパワーで解決してくる彼女たちは、流石と言えば流石ね……」
ゆりは感心しているのか呆れているのか自分でも分からないような、複雑な溜め息混じりの感想を漏らした。
「なんにしても、遥たちのこの大レースのおかげで、極限環境下における過酷極まりない実証データが大量に取れているのだから複雑よね。喜んで良いのやら、呆れたら良いのやら……」
「いいじゃないか! 開発者として最高の限界データが取れて、パイロットである遥たちも全身全霊で楽しんでいるのなら一石二鳥だよ。……まあ、できればこの私も、あのレースに混ざって参加したかったのだけれどねぇ」
「ねぇマリ、あの命がけの超スピードレースに本気で参加したいの? あなたなら絶対に最初のカーブで即コースアウトしてるわよ。というか、確実に初周で周回遅れにされるわね」
諦めきれない様子でぽつりと呟くマリに対し、ゆりはノータイムで冷静な現実を突きつける。
「わはは! 確かにそれは大いにあり得るね! 流石の私でも、あの常識外れな速度のまま悪路のヘアピンカーブへ突っ込む度胸はないよ。間違いなくコース脇の岩壁に激突するか、崖の底へまっさかさまだね」
流石の天才エンジニアであるマリも、あの常識の枠を超えたスピードとテクニックで爆走する256人の遥たちの輪に入ってハンドルを握るのは、流石に御免のようだった。
結局、その日の過酷な山岳ダートレース(という名の試験走行)は、周囲の陽が完全に暮れて真っ暗になるまで熱く続けられ、見かねたゆりがマイクで強制終了を宣言したことで、ようやく幕を閉じたのである。




