12-22 あなたは売る立場の人でしょう……
12-22 あなたは売る立場の人でしょう……
「うぉぉおぉっ! こ、これはまさに『超音速戦士ホークマン』のスパークサンダーじゃないか! ええっ、メガブースターと合体するだって!?」
仕様書と添付された実証テストの動画を再生した渡辺譲司は、Web会議の画面越しに興奮を抑えきれず、身を乗り出して叫び続けていた。
その画面越しの凄まじいテンションの高さをモニターで見つめるふたりは、苦笑いを浮かべるほかない。
(えらい興奮のしようだね。ナベさん、相当あの手のアニメや特撮が好きだったんだねぇ……)
画面の向こうでは、テストコースでメガブースターが滑らかに変形・スライドし、オルトロスの後部へとガッチリ噛み合ってドッキングする「合体シークエンス」の映像が美しく流れていた。
「ええ、渡辺さん。オルトロスとメガブースターがドッキングすることで、短時間の空中飛行および滑空が可能になります」
ゆりが画面越しに、オルトロスへ新たに追加された拡張機能の概要を至極真面目に説明する。
「高機動形態、と我々は呼んでいるよ。飛行機能を付与することで、地上戦だけではカバーしきれない作戦領域を格段に広げられると考えたのだよ」
ゆりの説明を補足する形で、クローディア(マリ)がドヤ顔で胸を張りながら解説を加えた。
ふたりの説明を聞いた渡辺譲司はというと――
「す、すごい……! すごすぎるよ! これは私自身が個人的に買いたいくらいだね! しかも、単体の変形メカだったメガブースターに合体ユニットとしての新たな価値すら見出してくるとは……まりちゃんの頭の中はどうなっているんだい!? これなら変形版メガブースターの単体販売も大ヒット間違いなしだ! ……ん? 添付ファイルにもう一つ動画があるね?」
興奮しっぱなしのナベさんだったが、送信された資料の末尾にもう一つの動画データが残されていることに気がついた。
「ええ、そちらは三輪バギータイプの機体で、コードネームは『ケルベロス』です」
ゆりが引き続き解説に入ろうとした、その時――。
「こ、これは……っ!? 『青い光弾ギリオン』に出てくるトライガーダーじゃないか!!」
説明を受けるまでもなく、ナベさんはその武骨かつスタイリッシュなデザインのルーツを瞬時に察知して叫んでいた。
「まりちゃん! ゆりちゃん! これも……これももちろん変形するんだよね!? ね!?」
(えらい食いつきだね、ナベさん……)
マリは心の中で思わずツッコミを入れた。そのナベさんの姿は、大好物の餌を目の前に出されて目をキラキラと輝かせる飼い犬そのものであった。
「ええ……。ケルベロスは変形機構を作動させることで、近接戦闘用の『人型形態』へと移行することができます」
ゆりはナベさんの凄まじい熱量に若干引き気味になりつつも、平静を装って説明を続ける。
「ナベさん、もちろん人型形態での近接格闘戦にも耐えられるよう、各部フレームは極限まで補強してあるよ。ついでに専用の近接武器も一通り開発しておいたからね」
「うわぁぁ……これはすごい! こっちも個人的に一台欲しいなぁ……!」
(あなたは買う方じゃなくて、これを売る立場の人でしょう……)
ゆりは表情を一切崩さないまま、心の中で呆れ混じりに完璧なツッコミを入れるのだった。
ナベさんが再生している動画画面では、遥の操縦するケルベロスが鮮やかに人型へと変形。ホバー跳躍からのアクロバティックな「空中斜め回転旋回斬り」でターゲットドミーを跡形もなく完全に粉砕する圧巻の映像が流れていた。
「いやぁ……! ふたりとも、私の無茶な頼みを聞いてくれたばかりか、毎度毎度こちらの想像を遥かに超える凄いものを作り上げてくれる……! いやぁ、本当に私は嬉しいよ! ありがとう、ふたりとも! また感謝のしるしに美味しいお菓子をたくさん送っておくから、みんなで食べておくれ!」
こうして、渡辺譲司からの難解極まる車両開発オーダーは、大絶賛と大興奮のうちに無事果たされたのであった。
――Web会議を無事に終えたふたりは、ホッと深く息を吐きながらソファへと背中を預け、ナベさんのあのはしゃぎぶりについて談笑を始める。
「ナベさん、心底喜んでいたねぇ。頑張って開発した甲斐があったというものだよ」
マリがゆりに満足げな笑みを向ける横で、気配もなくそっと歩み寄った遥が、淹れたての香ばしいコーヒーが注がれたカップをふたりの前に静かに差し出してくれた。
「本当よ……一時はどうなることかと思ったわ。『車両を作ってくれ』なんて、マリが突然何を言い出すのかと頭を抱えたもの。車両開発のノウハウなんて一切ないのに、本当に完成させられるのか不安でたまらなかったんだから。……遥、ありがとう。いただくわね」
ゆりは当時の苦労を苦笑交じりに振り返りつつ、遥が淹れてくれた温かいコーヒーに口を付ける。
「ふふふ、この私は天才だからね! やってやれないことは無いのさ。……おや、遥、ありがとう」
マリも遥にお礼を言い、同じようにコーヒーを一口啜る。
難関プロジェクトをまたひとつ完璧に乗り越えた三人は、研究所の休憩所で久しぶりに訪れた穏やかで贅沢な時間を心ゆくまで堪能していた。
部屋には、芳醇なコーヒーの優雅な香りが、優しく漂っていたのだった。




