12-17 泥臭きトライ&エラーの果てに
12-17 泥臭きトライ&エラーの果てに
結局、その日のテスト走行はケルベロスのホバーダッシュにおける「姿勢制御パラメータ」の微調整だけに終始費やされることとなった。
というのも、ハイスピードで急激な方向転換を試みるたびに機体のバランスが破綻し、派手に転倒する事故が何度か発生したからである。
旋回に入った瞬間、制御を失った数トンの巨大なケルベロスがテストコースの床へと豪快にスライディング! 激しい火花と鼓膜を刺す金属音を響かせながら、そのまま十数メートルも滑っていった。
「ちょっと、遥! 大丈夫!? 怪我はないかしら!?」
管制室からゆりが青ざめた顔で慌ててマイク越しに声をかける。
『はい、ゆり。私は問題ありません。ケルベロスにも重大な構造損傷は見受けられません。テストの続行は可能です』
遥は静かな声で報告しながら、横倒しになっていたケルベロスを「ぬっ」と力強く立ち上がらせた。
激しくスライディングした影響で車体表面の装甲は傷だらけになっていたが、フレームの歪みやホバー駆動系の破損は見当たらない。伊達に「アノマリー戦闘用」を謳っているわけではなく、この程度の転倒衝撃で壊れていては話にならないのだ。
遥は何事もなかったかのように機体の姿勢を立て直し、再びホバーダッシュのテストを再開する。
――まさに、泥臭く過酷なトライ&エラーの繰り返しであった。
試作機のテスト中に何度も巨躯を転倒させられれば、普通のパイロットなら真っ先に心が折れてトラウマになってしまうだろう。強化スーツを着ているとはいえ、死線に片足を突っ込むような恐怖心と精神的プレッシャーは計り知れない。
まさに遥だからこそ冷静にやり遂げられる仕事であり、またクローディア(マリ)もまた、ベクトルは違えど常識の枠外にいる人間であった。仮にマリ自身が乗って転倒したとしても、「これは面白い挙動だ!」と目を輝かせながら躍起になって調整に没頭していたはずだ。
そんな遥の粘り強い協力とマリの試行錯誤により、数度のプログラミングおよびパラメータ調整を経て、ついに旋回時の不自然なふらつきは完全に消失! 滑らかな高機動ホバーダッシュを実現し、コーナーで転倒することもなくなった。
「ふむ……姿勢抑制値の微調整がなかなかに難解だったね。まあ、なんとか形にはなったかな。……まあ、私が直接乗れば、あとは身体の感覚でカバーできるのだがねぇ」
「乗ればなんとなく直感で操作できる」という、感覚派の天才ならではの豪快な理論を展開するマリ。
「マリ、駄目よ。絶対試乗は許可しないわ。……それに、あの機体は二人も乗れないわよ?」
不穏な気配(二人乗り試乗)を察知したゆりは、即座に鋭く釘を刺すことを忘れない。
「そうだよねぇ……。いっそ、二人乗り可変形態も追加で作るかな? ん……それ、アリかもしれない!」
「変形」に続いて「二人乗り」という本末転倒なロマンアイデアを思いつき、一人で大きく頷いて納得し始めるマリ。
(……私は仮に二人乗り形態が完成したとしても、絶対に乗りたくないわね)
ゆりは脱線し続ける愛すべき相棒の横顔を見つめながら、心の中で固く固く誓うのだった。
「よし! いい加減時間も遅くなってきたし、今日のテスト走行はここまでにしようか。遥、悪いけれどケルベロスの詳細ログデータを回収したいから、メインポートにケーブルを繋いでおいてくれるかい?」
『承知いたしました、マリ。データ回収用ケーブルを接続します』
遥は即座に応答すると、ケルベロスを慣れた手つきで武骨な三輪形態へと戻し、機体のデータポートへ情報ケーブルを接続した。
機体の格納庫への収容と撤収準備をテキパキと進め、三人は達成感と程よい疲労感に包まれながら、本日の長く熱いテスト走行を無事に締めくくるのであった。




